黒いヒメギフ

 仙台市の外れに、地元蝶愛好者には昔から知られたヒメギフチョウがいます。

 ここのものは、近くのヒメギフとは違って、やけに黒っぽい個体が多いようです。
 飛んでいるときはそうでもないのですが、止まったところをちょっと見ただけで、こいつは黒い!と感じます。
 前翅内縁の黒条が北海道亜種のy字ではないものの、エゾヒメギフに似ています。
 この黒っぽいヒメギフは、ポツンと飛び離れた特異な分布を示すウラジャノメの発生地近くにいる個体群なのですが、この辺りには、東北の太平洋側には珍しいミスミソウなどの裏日本要素の植物が生えていたりする地史的にも非常に面白い地域です。

 昨年、このポイントに数人の昆虫販売を生業にしているといわれる採集人が入り、かなりの数のヒメギフを採って行ったそうです。
(私も、ここで地元の採集者ではない人たちが入っているのを見かけましたが、そういう種類の人たちとは知りませんでした)
 
 いつもなら、視界に数頭は必ず見かけるほどの、ヒメギフの生息地としては理想的な環境なのですが、今年は絶好のお天気で最盛期というのに、ここのポイントは空っぽになっていました。
 二日粘って、この写真を撮った2頭を見たきり。

2017/04/16 仙台市青葉区

2017/04/16 仙台市青葉区

2017/04/16 仙台市青葉区


2017/04/16 仙台市青葉区

2017/04/16 仙台市青葉区

 生態的にも、量的にも安定した集団を形成していた一つの特異な地域個体群をほとんど壊滅させるに等しい採集を行う人たちは、例によって「人間がどれほど採集したって蝶がいなくなるなんてことはない」とうそぶきながら、今年もまたどこかの変わった地方型を標的に、採集しまくっているのでしょうか。

 30年以上前の日本の自然がまだ自律性や棄損に対する修復力を持っていた時代ならもんだいではなかったでしょうが、今や個人の楽しみのために、最小限の採集ならともかく、他人のコレクションのために自分の必要を越えて採集するという行為の良しあしについて、真剣な思索が必要な時期ではないかと私は思います。