10月台湾撮影記5 - ミヤジマミスジ -

 台湾に出かけた翌日、内田春男さんの内田3部作に頻繁に登場するタテハチョウの宝庫ともいわれる台湾中部・谷關で、現地に着いて車から降りたところでミヤジマミスジを撮影しました。
 リュウキュウミスジも一緒に飛んでいるので、それとはわからずにいたのですが、案内してくれたLさんが、ミヤジマミスジだというので驚きました。
 彼は、とてもラッキーだと喜んでくれました。

 台湾にはNeptis(コミスジ属)が13種類も生息しています。
それぞれがとても似ているので、種の判別にはかなりの精通した知識が必要ですが、一番の分かりやすい特徴として、ミヤジマは後翅中室の白い帯(3列の白い横紋列のうち真ん中の白い線)がほかのミスジより明らかに太く明瞭に見えます。
 ミヤジマミスジは、食樹が判明しているそうですが、その楡科のケヤキの一種には、まだ正式な学名がなく、台湾名の植物名さえも付けられていないのだとか。このケヤキは台湾特産でごく限られた場所で生育が確認されているだけだそうですが、ミヤジマミスジが非常に珍しいのはその食樹の希少性のためだということです。

ミヤジマミスジ♂ 2017/10/13 谷關
リュウキュウミスジとの違いは、3本の白帯の真ん中の帯が幅広く、触覚の先が白くないところ。

ミヤジマミスジ♂ 2017/10/13 谷關
ミスジミスジチョウの中間ぐらいの大きさ。

ミヤジマミスジ♂ 2017/10/13 谷關
飛ぶ様子や止まる姿もごく普通のコミスジと同じで、特に珍奇な蝶という感じがしない。笑

ミヤジマミスジ♂ 2017/10/13 谷關
あまりに普通風過ぎて撮影意欲はあまりわかないものの、よく見るとやはり美しい。
丁寧に近接ショットを撮ってみた。



 ミヤジマミスジを撮影した翌日、私はLさんとともに、日本人蝶愛好者にとっては特に内田春男さんの長年の助手として、また台湾の蝶のガイドとして知られる羅錦吉氏宅を尋ねました。
 Lさんと羅氏は、内田春男さんが台湾の蝶の生態を精力的に調査していたころからの古い友人で、内田さんが亡くなられた後、Lさんは今や台湾における蝶生態研究の第一人者となり、羅錦吉さんは、日本人相手に蝶のガイドをする仕事をする人となりました。
 同じ日本人の蝶の研究者とのかかわりがある二人ですが、それぞれにたどった道は微妙に異なったようです。

左 羅錦吉氏
右 林春吉氏

 ひとしきりのお茶話の後、彼の別宅にある蝶博物館を拝見させてもらいました。
 そこには、台湾の蝶に関心のある者なら、だれもが一度はその名を聞いたことがある幻ともいうべき蝶の標本がずらりと並んでいるのですが、とりわけ珍奇な「マラッパイチモンジ」と「エサキカラスシジミ」、それに1999年以来台湾では絶滅したと言われている「キアゲハ・台湾亜種」の標本箱を撮影させてもらいました。

羅氏の胡蝶展示館の前で

マラッパイチモンジ
台湾中部大地震以来、生息地に立ち入りができず、この蝶の消息は途絶えている。

エサキカラスシジミ
過去に採集された総個体数は20に満たないと言われる台湾の中でも超の付く珍蝶。

キアゲハ台湾亜種

 キアゲハは、台湾の蝶愛好者にとっては悲しみと共に思い起こさずにはいられない蝶だ。1999年の大地震の後、台湾高地の生息地から忽然と姿を消してしまった。日本のキアゲハに比べて濃色で、サイズが著しく小さく、狭い台湾の高地帯に特殊な変異を遂げた個体群だった。
 タイワンサイコという台湾特産の植物ただ一種を食草としていたため、地震による生息地の崩壊などで、命脈を絶たれたと考えられている。

台湾産ミスジチョウ類の標本箱の一部

 館内の歴史的な台湾産蝶類の標本の数々を見て歩くうちに、ミスジチョウ類を展示した一角があったので、ミヤジマミスジを探しましたが、その標本箱のスペースは空白となっていました。以前は標本があったのですが、日本人の収集家にかなりの値で売ってしまったそうです。

 ああ、アップ画像を撮っておいてよかった。笑