10月台湾撮影記7 - ヘリブトルリシジミ -

 ルリシジミのグループは、台湾には9種類います。
 日本と台湾で共通する種類は、ルリシジミ・スギタニルリ・サツマ・ヤクシマルリ・タッパンルリの5種類ですが、日本の普通種・ルリシジミは、台湾では極めて稀な珍種だそうです。
 また、ちょっと意外なことに、日本では決して多いとは言えないスギタニルリは、台湾では普通種並みにいて、春限定ですが、ちょっとした山地に入ればそこそこにみられるとか。
 一方で、台湾では最普通種のタッパンルリシジミは、日本では珍種と見なされています。
 海によって隔てられたそれぞれの蝶の生息状況は、その地理史的な背景や、気候適応的な性質を考えると興味深いものがあります。

 ルリシジミ類は、似たような種類が多く、判別も煩わしいですが、その中ではちょっと変わっているのが、このヘリブトルリシジミです。 
 名前の通り、の翅表は、太い黒帯に囲まれていて、翅を開いたところを見れば、一目でそれと判定できます。
一見地味な蝶ですが、これは非常に珍しいものだそうです。

 この蝶のポイントに案内してくれたLさんの話によれば、日本人でこの蝶を採集もしくは撮影したことがある人は、内田春男氏、五十嵐邁氏、大野義昭氏などせいぜい5人ぐらいだそうです。
 帰国後、内田春男さんの台湾3部作を見てみると、蝶のリストには名前が載っていましたが、この本の出版時にはまだ撮影ができなかったと見えて、生態・不明という記述があるだけでした。
 台湾の蝶マニアの間では、最近、埔里の近郊に発生地が発見され、探すのは以前ほど困難ではなくなったそうです。

 この蝶がなかなか見つけにくいのは、この蝶と同じ場所に多数生息しているタイワンクロボシシジミと翅を閉じて止まっているときの紋様やサイズが非常に似ていて紛らわしいせいもあるようです。
 よく見ると、タイワンクロボシの方は、尾状突起があるので、ヘリブトとは簡単に区別ができます。

 この蝶を見つけたのは、6年前初めてイナズマチョウの撮影をしたポイントで、周辺は生物学研究所の生態保護林に指定されている、台湾でも貴重な低地性原生林が残っているところです。
 うっそうと茂った密林の薄暗い地表のコケの上で、タイワンクロボシシジミと一緒に吸水していました。

ヘリブトルリシジミ♂ 2017/10/16 台湾・南投県
翅裏の斑紋パターンは、ルリシジミ類とタイワンクロボシシジミの中間。
後翅の黒い大きな斑紋は、他のルリシジミ類ではあまり目立たないために、タイワンクロボシに近い感じがする。

ヘリブトルリシジミ♂ 2017/10/16 台湾・南投県
この辺りに沢山いるタイワンクロボシシジミの中に混じっていると見わけがつきにくい。
真ん中の最も白っぽいのがヘリブトルリシジミ

               ヘリブトルリシジミ♂ 2017/10/16 台湾・南投県
               翅を開くと、この蝶がほかのルリシジミとははっきり区別できる特徴が判る。
        鈍い藍色の地に、黒い太い縁取りがある。

ヘリブトルリシジミ♂ 2017/10/16 台湾・南投県
この蝶も、鈍く見える藍色は構造色になっていて、飛ぶと翅の角度で美しい金属光沢に輝く。
その綺麗な青い輝きを写したいと思ったが、飛び写真はすべてピント外れかブレブレばかりでした。涙;

ヘリブトルリシジミ♂ 2017/10/16 台湾・南投県
左上はタイワンクロボシシジミ
右下はヘリブトルリシジミ
クロボシの方は、一対の尾状突起があるが、ヘリブトは尾がなく、後翅が丸い。

ヘリブトルリシジミ♂ 2017/10/16 台湾・南投県
縁毛のスレも殆どない、綺麗な♂。
新鮮な個体を撮影できたのは、とてもラッキーでした。