薄暮に飛ぶ  - クロヒカゲモドキ -

 先日やっと、この蝶との面会を果たしました。
 クロヒカゲモドキを撮影したいと思うようになって、何年目でしょうか。

 20年以上前には、岩手県の岩泉方面に数か所の棲息地が知られていましたが、いつか行きたいと思いながら果たせないでいるうちに、この地のクロヒカゲモドキは姿を消しました。
棲息地の一つは、観光地のど真ん中にあって、観光客が捨てたジュースの空き缶に吸汁に来ていたなどと語られた風景も、今は昔の話です。

 二口のウラジャノメ同様に、分布の中心は中部・関東にあって、なぜか遠く飛び離れた東北に隔離された発生地があるという蝶には、東北在住の蝶好きとしては、深い興味と執着を覚えます。
 なぜ、もっと早く岩手のクロヒカゲモドキに会いに行かなかったのかと悔やまれてなりません。

 かつて点在していた関東の棲息地も、年々消滅してしまい、分布の中心地であった長野、山梨でも、多くの場所から姿を消したと言われています。
 この蝶の食べる草は、主にアシボソというイネ科の雑草で、ちょっとした山地にいけばどこにでも生えているものですが、食草があるだけではこの蝶が生きていく条件としては十分ではないのでしょう。

 いつかこの蝶を写したいという気持ちは年々募るばかりですが、今月、某フィールドで出会ったSさんに、貴重な生息地の情報を教えていただくことができました。
 
 連休を前に、採集者に採られて数を減じる前に撮影しようと考え、蝶友Fさんを誘って、片道4時間の道のりを日帰りの強行軍で出かけました。
 この蝶も、キマダラルリツバメと同様、夕刻から活動を始めますが、初めての場所ということでもあり、お昼前には現地について、ポイントの特定を試みることにしました。
 大勢の採集者が付けたであろう踏み跡道が、雑木林の中に縦横無尽に残っているので、おそらくそこが発生地なのだろうと推測し、その道をたどってみるのですが、炎天下、現れるのはヒカゲチョウやクロヒカゲ、ヒメキマダラヒカゲ、ジャノメチョウだけで、それらしいものは出てきません。

 結局は、夕方近くなって、日よけのために偶然に止めていた車の駐車していた辺りが最良のテリ張りポイントだったことがわかりました。
 文字通りの車横付けポイントというわけです。 笑;

夕方5時を過ぎてもクロヒカゲモドキが現れないので、恐れていたフライングが現実のものになったかとがっかりして撤収しようとしたとき、現れました。
非常に新鮮な♂
例年ならば、7月下旬からでてくるのですが、今年は全般的に蝶の発生が早いので、フライング覚悟で来てみたら、読みはばっちり当たりました。

何故か、Fさんの周りを飛び回った挙句、盛んに止まりたい様子。
とうとう、Fさんの足にとまりました。

腕に来たクロヒカゲモドキ
人の汗の臭いにひかれたようです。

地面にも来て、吸水を始めました。
じわじわと間合いを詰めて、マクロで狙える数10㎝まで近づいて撮影。

薄暮のなかを飛ぶ
飛び写真を狙うも、暗い中で1/4000秒では、画調は破綻気味。


やっぱり、フラッシュを併用しないとダメですね。
そろそろフラッシュを購入するかな・・でも設定とかメンドくさそう。汗;

         ヒカゲ類の暗チョコレート色は暗い時に、破綻しやすいようだ。
         これは薄暗いなかでも綺麗に撮れたほうかな。



ほかの人のブログを見ると、この蝶は、止まるとすぐに翅を開き、翅裏がなかなか写せないなどと書かれていますが、今回は翅をなかなか開かない個体ばかりでした。

そのなかで、このオスだけは、翅を半開きにしてくれました。
もっと上から見下ろすようなアングルで撮りたかったのですが。

       クロヒカゲによく似ていますが、翅の丸みと眼状紋が大きいというだけで、
       何か全く違う雰囲気の蝶に見えます。


スレのない、完全な紋様の♂。
今日羽化したばかりの個体なのかもしれません。
     
6時半を過ぎ、フラッシュのない状況では撮影もままならない照度となりました。
この地のクロヒカゲモドキがいつまでも安泰であることを願いながら、帰途につきました。

このポイント情報をご教示くださったSさんに深く感謝を申し上げます。