また台湾に行ってきました。

 昨日、台湾から帰ってきました。
 あいにく、出発当日から台湾は梅雨入り。
 例によって(笑)、台湾全土が大雨か小雨の毎日でした。
 案内してくれる林さんが、毎日台湾の気象WEBで各地のローカルな一時間ごとの天気状況をチェックしてくれました。そして、気温が高くてたとえ数時間でも雨が降っていないところがあれば、そこをめがけて撮影に出かけるという日々でした。蝶は、必ずしも綺麗に青空が広がっていなくても、気温が十分高くて雨さえ降っていなければ、それなりに活動するものです。(台湾と言えども、高山の蝶はやはり太陽が出ないとまるでだめですが)
 おかげで、台湾北東部から、台湾南部の高雄まで走り回るという、林さんのご厚意が無ければ到底不可能な、超ハードな撮影の一週間を過ごさせていただきました。

 今回の最大の目標は、3年ぶりのフトオアゲハの撮影です。
 昨年の冬は、台湾では極端な暖冬で、いつもなら4月中旬に発生するフトオアゲハは3月中に出てくるのではないかという大方の予想に反し、日本同様、3月中旬から4月一杯まで、寒冷な気候となり、4月下旬になってやっとフトオアゲハの羽化が始まったということです。
 また今年は個体数が少なく、5月になってもこの蝶の撮影者は数人だけ、という状況で、林さんは今年はあまり期待しない方がいいかもしれない、などと私が出かける寸前に弱気なことを言っていました。

 フトオアゲハの撮影は帰国する前々日と、前日の二日間に天候がやや回復しそうだという週間天気予報を頼りに、日程を設定しました。
 実際は、さらにその前の日から天気が少し回復していたのですが、その日は、台湾中部で別の蝶を追っかけていました。

 出発日、早朝に林さんの自宅から望める遠くの山岳地帯には、分厚い雲がかかっていました。
 天気予報は、現地付近の天候は、二日間とも、午前7時過ぎから11時ごろまで曇り、気温28度。12時からは大雨ということで、7時から11時の4時間に望みをかけることになりました。

 林さんの友人で、昨年はタニカドミドリシジミの撮影を見事成功された石さんと一緒に、林さんのシークレット・ポイントを目指しました。ところが、先週来の雨で渓流が増水し、これは危険だというので、引き返すことになりました。
 やむを得ず、多くの撮影者が訪れるポイントに作戦を変更し、蝶が現れるのを待ちました。

 じつは前日、このポイントにフトオアゲハが3回(同一個体)現れたそうです。平日でしたが、撮影者は20人程いたとか。しかし、蝶が現れると、この20人が殺到するため、蝶は驚いて吸水のそぶりを見せてもほんの数秒ほどで飛び立ってしまい、その場にいた誰もちゃんとピントの合った写真を撮れまま、一日が終わってしまったそうです。

 その同じ日、別の場所でミドリシジミの希少種、タイワンミドリシジミが出たというニュースが台湾の蝶愛好者のSNSで話題になり、私たちがフトオアゲハのポイントに行った日には、撮影者は香港から来たという数人しかいませんでした。林さんによれば、前日あまり人が多すぎて誰も写真を撮れなかったので、今日は日曜日で昨日以上に撮影者が殺到するのを恐れて、みんなタイワンミドリシジミのポイントに行ったのだろうとの由。
どこの国でも似たようなもんですね。笑

 というわけで、我々だけでゆっくり撮影ができるようです。
 空は雲が切れて、青空になってきました。
 あちこち歩きまわっていると、岩の間で翅をパタパタさせている黒い蝶が見えました。後ろの翅の赤い色がまぶしく揺れています。
 いました!
 フトオアゲハです。

 3年ぶりの再会に、心が躍りました。
 我々が撮影していると、近くにいた一般の人たちも集まってきて、子供たちまでが手に手にコンデジスマホのカメラを向けて、やはり撮影大会となりました。笑
 フトオアゲハは警戒心の強い蝶ですが、一旦吸水モードに入ってしまうと、ちょっとやそっとでは動じなくなり、周りでどれほど喧噪状態となっていても平気で吸水を続けます。

 一通り撮影を済ませたころ、林さんが、「日本のお知り合いじゃないですか?」と言うので、見ると、海野和男さんが息せき切ってやってきました。挨拶もそこそこに、海野さんは、すぐさま2台のカメラを据えて撮影を始めました。
 海野さんの撮影する様子を見ると、彼の手がガクガク震えています。
 もしかして、海野さんってアル中?笑
 聞くと、ここへ通って4日目。
 前日はフトオの姿は3回見たものの、一枚も写真を撮れず、今日こそはとの思いと、やっとフトオアゲハの写真が撮れる、というので興奮してしまったそうです。世界中を回って、これぞという珍しい蝶を撮影してきた歴戦のプロ・カメラマンでさえ、緊張と興奮で手が震えてしまったというわけでしょうか。
 この蝶との出会いがどれほど幸運であるかを、改めて感じました。

非常にきれいな♂です。
林さんの見立てによれば、羽化して一日も経っていない個体だろうとのこと。
よく見ると、細かい傷がありますが、これは高標高の発生地から吸水ポイントまで降りてくるまでに、木の梢や葉擦れを抜けるときに傷がついてしまうそうです。

殆ど鱗粉のスレがない新鮮な個体ですが、左前翅に細い白い線が入っていました。
近くで直に見たときはそんな線など見えなかったのに。
ありゃ、カメラの撮像素子に傷を入れちゃったかと愕然としたのですが、実はこれは蝶の羽に付いた蜘蛛の糸のようです。この後のショットには、蜘蛛の糸が太い尻尾の端に移動しているのが写っていました。笑

 この日は、結局この一頭が一回きり姿を見せてくれただけ。
 あとは全く何も現れませんでした。

 次の日、天候は前の日と全く同じで、晴れるのは午前中の短い間だけです。
 この日は、海野さんも8時前には現地に到着。みんなでフトオが現れるのを鵜の眼・鷹の眼で待っていると、崖から滝のようになって落ちる流水の3.5mほどの上のところに一頭が飛来して、すぐに吸水を始めました。
 下から見上げると、2m30cmほどの高さに幅15cmぐらいのやっと人が立てるほどの棚状の段差があり、そこに登れば何とか近くに寄って撮影ができそうです。
でも、この流水の崖は、ぬるぬるとした藻に覆われていて滑りやすく、非常に危険な感じです。
 その場にいた人は、遠くから蝶を写すことしかできず、もどかしい思いをしていましたが、とうとう我慢できず若い人が近くに垂れ下がった木の枝にすがりついて段差まで登りました。
 続いて、もう一人。
 上にあがった二人が撮影する様子を見ると、居てもたってもいられません。笑
 私も蛮勇をふるって、年甲斐もなくその危なそうな崖をよじ登りました。若い台湾のカメラマンが私のお尻を下から押し上げてくれたので、何度かずるずると足もとが滑りながらも、何とか段差まで上がることができました。(;^_^A
 私は、海野さんに上に来ませんかというと、いや遠慮しますとのこと。
 3人が無理やりよじ登って撮影をしているのを見て、その場にいた残りの数人の人も登り始めましたが、近くの枝や笹に掴まって、足元が滑らないように体を支えながら段差に立っていられるのはせいぜい5・6人ぐらい。それでも、ついに海野さんもとうとう我慢ができず上の人に引きずり上げられるようにして、あがってきました。
 この滝の流水に来たフトオアゲハは、前日の個体よりは細かい傷が多いものの、やはり新鮮な個体でした。

約10mほどの崖に落ちる流水に吸水に来たフトオアゲハの♂
崖の表面は藻に覆われてぬるぬるで滑り易く、足元の不安定な棚幅は約15㎝くらいでかなり怖い。

上にかぶさって生える木の枝につかまりながら、反対側に移動して、片手で蝶の左側から撮影。
順光で太い尾翅の赤い色が鮮やかに見えた。ただし、前羽の細かいかすり傷もはっきり。笑

赤い帽子が海野和男さん。
海野さんも、意を決して崖に登ってきた。
狭い岩棚で、6・7人が互いに体を支えあうようにして撮影。


このオスも、吸水に夢中ですぐ近くにカメラを寄せても全く頓着なし。
最後に飛翔を撮りたいと思いましたが、まだ連射の準備が終わらないうちに、誰かが飛ばしてしまいました。
せっかくのチャンスなのに、とても残念。
海野さんは、ばっちり飛翔写真をものにされたご様子でした。

この日も、姿を見せてくれたのはこの1個体が2回のみ。
あとは全く出てきてくれませんでした。
翌日は、台湾全土が快晴となり、フトオアゲハが複数みられるのではないかと期待させられましたが、あいにく私は帰国日で、後ろ髪惹かれる思いで台湾を後にしました。

 海野さんは帰国を一日延長して、この日も生息地に出かけられたようですが、台湾の友人の報告によれば、絶好の天気にもかかわらず、この日は一頭も現れず、成果ゼロだったそうで、フトオを撮影できたのは、私が行った二日間だけだったということでした。

これは、前の日に飛翔を撮ろうということで、周りの人が棒切れの先で蝶をつついて飛ばそうとしましたが、
吸水で活動が鈍くなった蝶がなかなか飛ばず、あれこれやっているうちにやっと飛んだものの、手まで写り込んでしまった失敗例。(;^_^A