ベニカラの悲喜劇
ベニモンカラスシジミ♀ 2016/05/29 長野県飯田市
ついに写すことができたベニモンカラス。
まさしく、奇跡の一枚
先週末、週間天気予報では晴れるとの情報を信じて、南アルプスのクモマツマキチョウの撮影に出かけました。
ところが、予報が当日の朝になって変わり、一日中曇りということに。
直近の予報だけに、ドンズバリと当たり、せっかく遠路はるばると仙台から出かけて行ったのに、丸一日南アルプスの峩々たる山を眺めて過ごすことになりました。
ミヤマハタザオの花の咲き具合は、まさしくクモツキの最盛期と思われ、太陽さえ30分でもいいから出てくれないものかとの願いもむなしく、初日は下へ撤退することにしました。
目的の蝶に会えないとしても、甲斐駒ケ岳や、一般登山道のない鋸岳の噂通りの険しい稜線を目の当たりにし、これはこれでいい時間を過ごしたと思います。
翌日は、今度こそは晴れの予報。
南のクモツキ激写してやるぞぉ!と意気込んで夕食を食べているところへ、Nさんから電話。
明日は南信濃のベニモンカラスシジミを探しに行きますとのこと。
クモツキは明日は間違いないものの、南信濃という仙台からは地球の裏側ほどにも遠くに思われる場所の間近にいて、蝶の撮影仲間のうちでも難関といわれるベニモンカラスシジミを探索する機会があるというなら、それにお付き合いをさせていただこうかなと、Nさんにその場でお願いをしてしまいました。
かくて、朝5時、山の旅館からタクシーで伊那市へ降りて、6時にNさんの車に拾ってもらいました。
伊那から飯田へ。
目的地にはすでに東京のKさん、Mさんの二人連れが待機してました。
東京を深夜2時に出てきたとのこと。
皆さん、蝶となると何を差し置いても、ってところが私は好きですね。笑
最初の場所では名古屋ナンバーの採り屋がポイントに入っていましたが、収穫はなさそうです。
初めてみるベニカラの生息環境。
クロウメモドキに食樹を依存しているだけあって、薄暗いミヤマカラスシジミの生息環境によく似ています。
イボタが混在しているのもまったく同じ。
ミヤマカラスシジミの探索経験からしても、こういうのは、意外に探すのは面倒です。
周囲にヒメジョオンなんかがあれば、吸蜜に藪から出てくるのかもしれませんが。
しばらくそのあたりを探索するもなんの気配もないので、次のポイントに移動しました。
そのポイントには、前日クモツキで一緒になった横浜から来たという3人組もいました。
彼らは早々に撤収してしまったので、私だけがしつこく残っていたのですが、今日、彼らもまさか同じ場所に来ているとは思いませんでした。笑
ほかにも数人のベニカラ撮影目的の人がおりましたが、肝心の蝶のほうは全く影も見えません。
川を挟んだ対岸にもベニカラはでるそうだ、という話を聞き、川を渡ってみることにしました。
その渡渉の途中に、足場の石がぐらりと動いて、私は川の流れに転倒しそうになりました。
悲劇はその時に起きました。
肩にかけていたカメラをジャボンと流れに入れてしまったのです。
まずい!と思ったときはもうカメラはずぶ濡れに。泣;
すぐにレンズを外して中に浸水していないかどうか調べてみましたが、濡れている感じはありません。
ファインダーを覗いても正常に動作するようです。
ああ、良かったと思ったのもつかの間、次に電源を入れた時にはもうシャッターが上がりっきりとなり、撮影ができない状態になっていました。
仕方なく、天日で乾かすことにしました。
午前中そこに待機していた人たちは、ほとんど引き上げてしまい、私たちと、前日この場所でベニカラ♀を撮影されたという大阪・T夫婦の6人だけとなっていましたが、私はただひたすら 水気が渇いてカメラの機能が回復することを願っていました。まだベニモン、出るんじゃないぞーーと密かに心の中で願いながら。汗;
と、そのとき 「おーい!出たぞー!」 という声が。
その場にいた人たちは一斉に声のするほうに駆け寄ります。
私も、少しの可能性に縋って、干していたカメラにレンズを装着してその場へ走りました。
しかし、無情にもカメラのシャッターが閉じたまま。
私はどうすることもできず・・・・ただベニモンカラスシジミの新鮮なメスがクロウメモドキの小枝で産卵場所を探してゆっくりと歩き回っているのを眺めているしかありません。
しかしこの時、まことに有り難いことに、窮状を見かねたKさんが、とっさに自分の予備のカメラを車から持ってきて貸してくれました。
Kさんのカメラに自分のSDカードを入れて、撮影を始めようとしましたがカメラのメーカーが違い、レンズの画角が違います。
蝶よ逃げないでくれ!と祈りながら、カメラを向けますが、慣れないカメラで、なかなかピントが来ません。
自分がいつも使っているズームの倍の長さのレンズが付いていたために、ディスタンスが近すぎてピントが合わないのだということが分かりましたが、距離を遠くとると蝶は小さくしか入りません。
焦ってズームすると、今度はピント範囲から大きく外れてしまい、またズームを元に戻してということを何度も繰り返してしまいました。汗;
焦りながらも、それでも必死でシャッターを押した結果、なんとかピントのあった写真がいくらかは撮影することができました。
ベニモンカラスシジミ♀ 2016/05/29
Kさんのカメラとレンズでやっとピントを合わせた一枚。
蝶は小枝のあいだで産卵モード。
葉が邪魔だが、いつ飛び去ってしまうか分からないので、とりあえず証拠写真をとらなくては!て感じでシャッターを切った。
ベニモンカラスシジミ♀ 2016/05/29
樹幹から横に張り出した小枝の叉に産卵する♀
食樹増殖のためつけられた食樹保護プレートの針金が見えている。
まさしくこの増殖のために植えられたこの樹に、メスは卵を産んでいるというわけだ。
ベニモンカラスシジミ♀ 2016/05/29
卵を一個産みつけるのに、しばらく樹幹を歩き回り、
産卵管を擦り付けながら最適な場所を探しているように見える。
ベニモンカラスシジミ♀ 2016/05/29
樹幹を登ったり、降りたりを繰り返す♀
ベニモンカラスシジミ♀ 2016/05/29
やっと一個の卵を産み付けた。
産卵直後は緑色で、メスの体のわりに大きな卵だった。
ベニモンカラスシジミ♀ 2016/05/29
ベニモンカラスシジミ♀ 2016/05/29
一個産み終えると、少し飛んで別の枝に止まり、樹幹のほうへ歩いていく。
ベニモンカラスシジミ♀ 2016/05/29
小枝の下側にぶら下がるようにして樹幹へ向かう。
なんとか、こうしてベニモンカラスシジミのきれいなメスの画像を手元のメディアに残すことはできました。
Kさんには改めてお礼を申し上げます。
また今回のベニカラ探索に同乗させていただいたNさん、Mさんにも大変お世話になりました。
それに、大阪のTさんご夫婦にも。
Tご夫妻が現れて、前日の産卵話などを聞いていなければ、私たちはほかの人たちと同様、あきらめて帰っていたかもしれません。私たちにとっては、まさしく奇跡の日の、奇跡のご夫妻でした。
どうも有り難うございました。
肝心の私のカメラは、さっそくカメラのメーカー修理に電話して、点検してもらうことにしました。
やはり、カメラは予備が必要なんですね。