フトオアゲハのモデル

 臺灣旅行の続きです。

 日本人にとっては、台湾の蝶といえばまず真っ先に思い浮かべるのは、フトオアゲハではないでしょうか。
 このフトオアゲハは、昔はPapilio属に近い仲間だと思われていたのに、幼虫や蛹の形態から、どうもマネシアゲハ属Chilasaに近いアゲハではないかと言われてきました。
 台湾で出版されている図鑑でも、フトオアゲハはChilasaとPapilioの間に掲載されています。

 マネシアゲハ属というのは、カバシタアゲハやキボシアゲハのような、マダラチョウ類に擬態したアゲハのグループで、その生態や形態はとても興味深い仲間たちですが、一部のアゲハ好きからは、イロモノとしてあまり好まれなかったりもします。
 イロモノとは、言ってみれば今の米共和党のトランプ某とか某国安倍某みたいな、常道から外れたたとえのことで、真性アゲハを好むアゲハ好きからは、ちょっと系統違いすぎ!ってことで、日本人あこがれのフトオアゲハがアゲハの外道的なところに系統付けられてがっかりしたという人もいたものです。

 ところが最近のDNA解析による系統研究によれば、フトオアゲハはマネシアゲハ属ではなく、新大陸の真性アゲハの一グループに近いことが分かったようです。
 大喜びしているアゲハファンもいるとか。

 しかし、真性アゲハ類にも、実はほかの毒をもっているといわれる蝶に擬態している種類が結構あります。
 カラスアゲハは特にその傾向が強く、中国大陸に行くとカラス的な緑色の派手な輝きはなくなり、黒一色で後翅に白紋を現すようになって、どんどんジャコウアゲハに似てきます。
 このあたりは、「Achillides -ミヤマカラスアゲハ-」という自費出版の研究書に詳しく解説されています。
 台湾のホッポアゲハは、派手な後翅の真っ赤な美しい紋で目を引きますが、これは同じ場所に生息するジャコウアゲハの仲間、アケボノアゲハに擬態しているのだといわれています。

 では、フトオアゲハは何に似せているのか?
 台湾のフトオアゲハがいるエリアに行けば、すぐわかります。
 オオベニモンアゲハです。

 オオベニモンアゲハは、低地には生息せず、500mから2500mぐらいの山地から高山にかけて分布していますが、フトオアゲハはこのジャコウアゲハの一種にそっくりです。
 フトオアゲハが現れたと喜んでいると、その正体はオオベニモンアゲハだったということがよくあり、がっかりさせられたものですが、しかし、このオオベニモンアゲハは実は結構きれいで、大きくて見ごたえもあり、私が好きな蝶のひとつでもあります。

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2016/05/07 台東
オオミヤマシロチョウが飛ぶ高山で見かけた♂。
飛び古して後ろ翅の赤い紋がすっかり色あせている

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2016/05/07 台東
新鮮な個体は、頭部・胴体・腹部が美しい赤色だが、この♂はすっかり爺さんのようで、地味な色合いだった。

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2016/05/8 台東
次の日、真新しい美しい♀がクサギの花にやってきた。
光をはじくビロードの黒い艶が、濡れた翅のように見える。

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2016/05/8 台東
頭部から腹部にかけて鮮やかな紅色。非常に美しい。
恐らく捕食者に自分はまずい餌であることを知らせるための色を纏っているに違いない。

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2016/05/8 台東
空高く舞い上がった。
青空と赤・白・黒のコントラストが素晴らしい。

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2016/05/8 台東

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2016/05/8 台東
クサギの花から花へと、青空に身を躍らせる。
この後、このメスは下藪へと降りてきて、産卵行動に移っていった。