哀しみのアサマシジミ

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 本州中部のアサマシジミ
 Aポイントは、昨年に続き、まったく姿が見えず。

 食草はそれなりに生えているのですが、姿を消してしまった原因はわかりません。友人の話によると、昨年5月にあちこちに食草の上部が刃物で切り取られたような跡があり、幼虫が丸ごと採集されてしまったのかもしれないと言っていました。


 昨年♂♀を複数撮影したBのポイントでは、現地に着くと、草むらに無数の踏み跡が見えました。どうも土・日に人が入った様子です。ヒメシジミは沢山いますが、肝心のアサマの姿が見えません。探し始めてから一時間ほどして、やっと一頭の♀を見つけました。何度か現れた♀を撮影しましたが、撮影画像を点検してみるとすべて同一個体のようです。

 この日は、朝7時半ごろから午後3時まで目を皿のようにして他のアサマ個体を探しましたが、確認できたのは結局この♀1頭だけでした。

 

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 このポイントは、文字通り猫のヒタイのような狭い場所で、わずかな食草が生えているだけの、アサマが世代をつないでいくにはまさにギリギリのキャパしかないような環境です。草地の数10mほどの範囲を見て歩くだけで、ポイント全体をチェックできてしまえるようなごく狭い発生地で、この数年、複数の撮影者がブロックしてなんとかこの地のアサマを守って来たそうですが、地元の人間でない以上、四六時中監視の目が届くわけではありません。その間隙を縫って採集者がわずかに命脈をつないでいる個体を目につく限り採ってしまえば、この個体群が絶えてしまうのは当然の成り行きです。

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 ただでさえ激しく減少しているアサマシジミの希少な地域個体群が、たった数人の採集によってあっけなく消滅してしまいます。
 アサマシジミは、長野では県条例で採集禁止。山梨は禁止条例はないが、絶滅危惧種に認定しています。
 最近出た「武器を持たないチョウの戦い方」(京都大学出版会)の著者、竹内剛氏も書いていますが、人間社会の法律があるなし以前に、そもそも絶滅危惧とされている生物種を採集する行為は、自然に対する犯罪以外の何物でもないと思います。

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辛くも採集者の眼から逃れたただ一頭の♀が、無心にウツギの花で吸蜜する姿を見ながら、これがこの場所の最後の個体かもしれないと思うと、このチョウの行く末が不憫に思われてなりませんでした。

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