ヒョウモンモドキの前途は・・・

今年の梅雨は長引くという予報を裏切って、不安定ではありますが、結構いいお天気が続いています。
仙台の冷夏の予想も、平年並みに変わったようですね。

この季節、年一化の蝶たちが一斉に姿を現す時期ですが、どうしても見ておきたい蝶の中でも、今のうちにと思わずにはいられない種類が何種かあります。
そのうちの一つがヒョウモンモドキです。

ヒョウモンモドキは、10年ほど前までは、長野・山梨の高原や中国山地の沼地周辺に広く分布していましたが、この4・5年の間に各地で姿を消し、今も生き残っているのは中国山地のごく一部だけになってしましました。
日本では小笠原のオガサワラシジミ、九州のタイワンツバメシジミとならんで、もっともその存続が危ぶまれる種の一つと言われます。

ヒョウモンモドキの仲間は、ウスイロヒョウモンモドキ、コヒョウモンモドキと3種いますが、もともと中国山地にしかいなかったウスイロヒョウモンモドキは、いまは兵庫と岡山のごく一部でしか見られなくなり、ヒョウモンモドキと似たような消長を辿っていますし、コヒョウモンモドキも中部地方の高原などではまだその姿は見られるものの、やはり同じような減退傾向にあると言われています。
これら3種とも、草原性の環境に住む蝶たちで、特にヒョウモンモドキは植生の遷移が進みやすい湿性の環境を好むため、他の2種以上にその衰退ぶりが際立っているようです。

ヒョウモンモドキが健在なうちにその姿を眺めておきたいという気持ちから、東北から出かけるにはちょっと遠い気がするものの、決心して広島まで出かけることにしました。

広島県三原市にヒョウモンモドキ保護の会というものがあり、定期的に観察会などをおこなっているようなので、この会と連絡をとってみました。すると、数年前までは一般の啓蒙活動の為に観察会を開催していたが、最近はヒョウモンモドキの発生状況が芳しくなく、食草の踏みつけなどの問題もあって、採集は論外としても、外部の撮影者にも積極的な公開はしない方針となったとの返事でした。
やむなく、ネットで知りえた生息地に当たりを付けて、そのポイントを探すことにしました。
ただ、気がかりなのはそのポイントの情報が2008年のもので、現在もその場所にヒョウモンモドキがいるかどうかが明確でないことでした。
もう一つ、さらに奥地に保護地があることが分かり、最悪の場合はそちらに足を延ばすことも考慮して、現地に飛びました。

広島空港からタクシーに乗り、約20分ほどでそのポイントに着きました。
沼地があり、その周辺にアザミが沢山花をつけています。
これは時期的にも悪くないと思いながら、沼地周辺に目を凝らすと、ヒョウモンモドキ生息地・採集禁止の立て看板もあります。この場所が生息地の一つであることは間違いないようです。
ところが・・・
いくら目を皿のようにして眺めても、ヒョウモンモドキの影は見当たりません。
ミドリヒョウモンやウラギンヒョウモンが時折アザミやヒメジョオンの花に来るだけで、肝心の蝶は不在のようです。
沼の周りを一渡り歩いてから、近くで除草作業をしているオヤジさんに話を聞いてみました。
「ああ、あの蝶はね、いなくなっちゃったよ。保護の会の人たちもここ2・3年は下草刈りなんかをしに来なくなったね。2009年の秋の大雨でだめになっちゃったようだな」
という。

ありゃ、それじゃここにいるだけ無駄だろうと判断し、急きょ場所を変えることにしました。
再びタクシーで、更に中国山地の奥に転戦します。
保護地のポイントに着くと、野外には人工的に作られた棚田があり、畔にはアザミが咲いたりしていますが、ヒョウモンモドキの影は全く見当たりません。
ふと見ると、棚田の平坦なところにかまぼこ型の農業用ハウスがあり、なんとそのケージのなかにヒョウモンモドキが飛んでおりました。
ケージに鍵がかけられているので、管理センターに行き、中に入る許可をもらい、やっとヒョウモンモドキの生きた姿を撮影することができました。

センターの人の話によると、この場所でヒョウモンモドキを飼育していることは、最近は積極的に外部にアナウンスしないことにしているそうで、センターのパンフレットにもほかの生物の紹介はされているのに、ヒョウモンモドキのことは全く触れていません。
棲息適地の維持管理には膨大な人手がかかることと、せっかく手入れをしていても雨などの浸水で簡単に生息地が消滅してしまい、その後の植生の変化も大きく、復活しないまま絶えてしまうということが近年続いているそうで、保護の会の下草刈りや食草の移植などの保護活動をしていても、増殖どころか、何とかヒョウモンモドキの現状維持に努めるのが精いっぱい、という深刻な状況を教えていただきました。
そんなわけで、生息地に人が踏み込むという行為だけでも神経質にならざるを得ないということでしたが、はるばる東北から来たことなどを話して、なんとか一時間の時間制限つきで、ケージの中に入らせてもらうことができました。

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最初に尋ねた生息地

保護・採集禁止の立て看板が空しく荒れた草地の中に立っていた。
2009年の大雨で沼地が水浸しになり、この場所にいたヒョウモンモドキが全滅してしまったとのこと。
そのあと、急激な植生の変化で、ススキや葦が繁茂してしまったようだ。


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ヒョウモンモドキ♀                                                DMC-GH4 f/6.3 1/500s ISO-200 45-175mm
更に奥の棲息地に移動して、やっと生きたヒョウモンモドキにご対面できました
♀は♂に比べて、全体的に黒っぽい。
キセルアザミの上に飛来して止まり、このあと産卵行動に入った。


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ヒョウモンモドキ 左:♂ 右:♀                                      DMC-GH4 f/5.6 1/1000s ISO-640 45-175mm
♀に絡む♂ メスは尻を上げて交尾拒否している
この蝶は穏やかな飛び方をするので、1/1000秒のシャッターでもピタリと止まった


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ヒョウモンモドキ 左:♀  右:♂                                   DMC-GH4 f/5.6 1/1000s ISO-640 45-175mm
メスが産卵行動に入ろうとするところに♂がしきりに誘う


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ヒョウモンモドキ♀                                                DMC-GH4 f/6.3 1/500s ISO-200 45-175mm
産卵の合間に、アザミの花で吸蜜する


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ヒョウモンモドキ ♂                                         DMC-GH4 f/5.6 1/1000s ISO-640 45-175mm
♂同士が卍巴に入り乱れて追尾飛行


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ヒョウモンモドキ 上:♂  下:♀                             DMC-GH4 f/5.6 1/1000s ISO-640 45-175mm
キセルアザミの葉の裏面に静止して産卵している♀
♂がまとわりついても無視して卵塊を作っていく


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ヒョウモンモドキ ♂                                 DMC-GH4 f/5.6 1/1000s ISO-640 45-175mm
2頭の♂が仲良くアザミで吸蜜
下の翅を開いた個体はとてもきれいな♂だった



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キセルアザミに産み付けられた卵塊                         DMC-GH4 f/5.3 1/500s ISO-640 45-175mm
ちょっとの刺激ですぐに卵が剥落してしまうということで、慎重に裏返す


ケージで撮影させていただく条件として、周囲の除草作業の手伝いをしてくださいと言われ、2時間ほど汗を流して来ました。
短い撮影時間でしたが、念願の蝶の姿を撮影できてとても満足です。