北限のムラサキシジミ

 20年ほど前、仙台にきたばかりのころ、青葉山の散策途中でムラサキシジミを見つけました。
 その前まで住んでいた秋田にはこの蝶はおらず、図鑑や標本でしか見たことがなかったので、生きたムラサキシジミは実に美しく輝いていました。
 あたりを見回してみても、常緑の樫の木などは見当たらず、コナラやミズナラばかりです。
 ムラサキシジミは、樫の木ばかりではなく、落葉するナラの木でも発生するのかと驚きました。

 その後、仙台周辺には数は少ないものの、ぽつぽつとウラジロガシやアカガシが自然状態で生えていることが判り、ある程度まとまっている場所も数か所見つけました。
 そんな場所ではムラサキシジミが発生しているようですが、シーズンに数頭見つけることができるかどうかという頻度で、やはり北限に近いこの地では発生数は関東あたりの発生地に比べて格段に少ないように思われます。

 関東以南では、この蝶は普通種と言っていいほどなので、ちょっとした公園などで簡単に撮影できるようですが、仙台ではモンキアゲハやチャバネセセリなどと同様、会えばドキリとする、暖温帯系のいまだ新鮮な顔ぶれの蝶です。

 驚いたことに、昨年は、アイノミドリシジミやフジミドリシジミが混飛するようなブナやミズナラの生える標高800Mぐらいの場所で、地面に吸水に降りているのを見つけたこともあり、思った以上にこの蝶は寒さに耐えることができるようです。

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ブナ・ミズナラ林にいたムラサキシジミ 2015/07/22 仙台市青葉区
この辺りは冷温帯の落葉広葉樹林が山の斜面を覆っているところ。
勿論、暖帯常緑樹のカシ類などは生えていません。
そんなアイノやフジが飛ぶ空間に、暖温帯系のムラサキシジミがいることに驚かされます。
ミズナラの土用芽への産卵目当てに山麓の発生地から飛来したものでしょうか。

夏のこの蝶はなかなか翅表を見せてくれません。
この個体も、紫色の輝きを誇示することなく飛び去ってしまいました。



こんな思いがけない出会いもあり、
今年は、北限に近い仙台のムラサキシジミをしっかりと撮影したいと、秋の来るのを楽しみにしていました。
9月、我が家の近くのポイントに偵察に出かけてみると・・・・  


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ムラサキシジミ♀ 2016/09/22 仙台市青葉区 
翅が大きく破損した♀。
一見飛び古した個体に見えましたが、よくよく見ると鱗粉などはきれいです。
線条のV字型のスレ跡からして、どうもヒヨドリなどに襲われて、翅をくちばしで挟まれたものの、運よく逃れた個体のようです。

 天気がいい日は、このポイントに通い、その都度ムラサキ君の姿を認めるものの、梢高くにいたり、斜面の向こう側を向いて翅を広げたりして、なかなかいい写真がゲットできずに、ずるずると11月になってしまいました。

 蝶友のFさんや、最近フィールドでお知り合いになったAさんは、目の前で美しい紫色を惜しげもなく見せてくれるムラサキシジミの素晴らしい写真を次々にゲットされているというのに、私はさっぱりいい撮影チャンスに巡り合うことができません。

 いよいよ11月も中旬に差し掛かるころになり、越冬ムラサキシジミが飛ぶ条件の良い日がだんだん少なくなってくるので、もう今年の撮影はダメかなと思い始めたころ、やっと私の目の前にも止まってくれました。


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ムラサキシジミ♀ 2016/11/06 仙台市青葉区
一点のカスレも汚れもない美しい♀が地表に降りて翅を広げた。
白や黄色の明るい落ち葉の上などに選択的に止まることが多いようです。
イヌシデの黄色の葉と、紫色が美しいコントラストを見せていました。


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ムラサキシジミ♂ 2016/11/22 仙台市青葉区
こちらは♂。
♂は♀より目撃頻度が少ないように思われます。
たまたま♀との遭遇機会が多かったのかもしれませんが。

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ムラサキシジミ♀ 2016/11/22 仙台市青葉区
ウラジロガシの梢から、笹薮の下草に降りて日光浴をする♀。
どういうわけか、笹の葉の上のあたりを飛び回り、いつものように梢の上に行こうとしない。

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ムラサキシジミ♀ 2016/11/22 仙台市青葉区
笹の下草から離れず、小刻みに飛ぶ

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ムラサキシジミ♀ 2016/11/22 仙台市青葉区
斜め下の笹の葉からレンズに並行するように飛び上がったので、うまくピントが来た。
日向ぼっこに適した場所を探しているのかと思いきや・・・

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ムラサキシジミ♀ 2016/11/22 仙台市青葉区
笹の葉の上を落ち着きなく、もぞもぞと歩き回る。


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ムラサキシジミ♀ 2016/11/22 仙台市青葉区
とある笹の葉に止まり、葉の裏に移動。
なぜか近くにハエが寄ってきた。

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ムラサキシジミ♀ 2016/11/22 仙台市青葉区
巻いた笹の葉先に口吻を伸ばしている。
笹に発生したアブラムシが分泌した汁が葉にこびりついていたらしい。
越冬中の成虫も、気温が上がるとこうした吸汁を行うことが判りました。

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ムラサキシジミ♂ 2016/11/22 仙台市青葉区
同じ場所に♂も姿を見せてくれた。


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ムラサキシジミ♂ 2016/11/22 仙台市青葉区
♀とはまた違う色合い。
♂は紫色の部分が広く、色も濃い。

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ムラサキシジミ♂ 2016/11/22 仙台市青葉区
このオスも下草から離れず、しばらく遊んでくれた。

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ムラサキシジミ♂ 2016/11/22 仙台市青葉区
傷やスレのない美しい♂。
グラデーションをなして青紫から赤紫に変化する♂特有の輝きが素晴らしい。



このオスを猛烈な勢いで追いかけている水色のシジミチョウが・・・
見ると、ヤマトシジミの♂がムラサキシジミの♂に盛んに求愛しているところでした。

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ムラサキシジミ♂とヤマトシジミ♂ 2016/11/22 仙台市青葉区
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ムラサキシジミ♂とヤマトシジミ♂ 2016/11/22 仙台市青葉区
熱烈に羽ばたきながら、交尾を仕掛けようとするヤマト♂。
ムラサキシジミは迷惑そうに翅をピタリと閉じていた。


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ムラサキシジミ♀ 2016/11/21 仙台市青葉区
地表の枯葉の上で、翅を閉じてレストモードになった♀。
少しでも目を離すともうどこにいるのかわからなくなるほど、冬枯れの環境に溶け込んでしまう。


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ムラサキシジミ♀ 2016/11/22 仙台市青葉区
日差しの明るさによって、♀の翅表の色も群青から明るい青に微妙に変わって見える。


明日から11月にしては記録的な寒さとなるという、暖かな日に、綺麗なオスとメスをじっくり撮影できました。
今年中に、あと何回ムラサキシジミたちの姿を見ることができるのでしょうか。
次の小春日和が楽しみです。