軽海紋白蝶

だいぶ昔のことになりますが、鳥海山ギフチョウを探しまわっていた時期があります。
若かりし頃に昔の文献を頼りに(汗;)、象潟町を中心に、広大な鳥海山の西麓から北麓をひたすら歩き回りました。鳥海山の西麓に数箇所、ギフチョウの発生地が見つかりましたが、毎年安定的に発生している場所は、ただ一箇所しかありませんでした。
そこは、秋田県側では唯一コシノカンアオイの一定規模の群落があって、ギフはそこでは毎年必ず産卵し、継年発生をしていました。
他の発生地は、ウスバサイシンだけが生育していて、そこでは、ギフチョウは数年発生したかと思うと、何年かすると跡形も無く姿を消してしまい、またあちこち探して歩いたすえ、別の場所で発生していることがわかる・・といったことの繰り返しでした。
もう40年も前の話です。笑

唯一あったコシノカンアオイの群落地は農道となり、毎年安定的に発生していた発生地からもギフの姿は消えてしまいました。
その後は、蝶への興味をうしなったこともあって、鳥海山のギフを追いかけることもなくなりましたが、のちに鳥海山の東側でもギフが採集されたというニュースには驚かされました。
しかし、その後見つかったギフの発生地も安定しているわけではなく、やはり何年かの発生ののち、姿を消して、また別の場所に移っていくようです。

ギフはやはり基本的には、カンアオイ喰いで、サイシンはカンアオイが無いときの非常食に過ぎないように、私には思われます。
サイシンが豊富に茂っているのに、一時的に発生を繰り返した後は、別の場所に発生地が移っていくのは、サイシンが好きでそこにいるのではないことを意味しているのでしょう。
現に、カンアオイとサイシンが混生している鳥海山南麓では、ギフはカンアオイにしか産卵しません。
ギフ蝶の交尾嚢の形態が、ウスバサイシンの水平に展開してしまう葉には、産卵しにくいという物理的な事情があるのかもしれません。つまり、ほんとはカンアオイがほしいのだけれど、それが無いので、ウスバサイシンにやむなく産卵している、というのが北限ギフのせっぱつまった状況なのに違いない、とわたしは思っています。


実は、台湾にも、そんな北限ギフみたいな居所の定まらない、やっかいな蝶がいます。
といっても、偶産種とか迷蝶というのではなく、れっきとした土着種です。
まさしくジプシーな蝶。

それが、カルミモンシロチョウです。

カルミとは、「軽海」という、この蝶を発見した日本人の苗字だそうです。
この蝶は、台湾のほかに、中国大陸やベトナムラオスなどにも分布しています。
発生地にはけっこうの数がみられるらしいですが、しかし、産地はきわめて限られているようです。

台湾では、非常に面白い分布をしていて、台湾の北東部海岸周辺だけの狭い地域にいるのですが、時に台北近くの大屯山や北投あたりでも一時的に発生した記録があります。
現在、台湾でこの蝶を確実に見ることが出来るのは、観光地として日本でも有名な九扮のある金瓜石~北部海岸の一帯で、発生している場所にうまく行き当ると、たくさんのカルミモンシロを見ることが出来るそうですが、前年その場所にいたからと出かけると、今年は全く姿が見当たらない、ということがしばしばで、なかなか居場所の定まらない蝶だということです。
カルミモンシロは、モンシロチョウによく似ていますが、サイズは一回り大型で、全体的に翅の形が丸みを帯び、♂は下翅が真っ白で黒い模様が全く無いこと、♀は前翅外室の黒斑が中室まで貫いて帯状をなすことで区別できます。
飛び方も、モンシロやスジグロなどの近似のPierisよりものんびりした感じがして、飛び方の違いでカルミだと分かります。
このチョウは、日本でも与那国で記録されているそうです。
風に乗って飛んできたのかもしれませんが、私は、このカルミはもともと台湾土着の蝶ではなく、だいぶ昔に大陸から人為的に渡来してきた蝶ではないかと思っています。
(ただその大陸の故郷というのが、どこかはっきりしていないのですが。なにせ、大陸では生息地がきわめて少ないみたいです。)
というのも、前記のように分布が台湾北東部に偏っているからです。
これは、恐らく基隆あたりの港から、周囲に拡散したものではないかと想像できます。
なにせ、基隆は台湾における海外貿易の一大拠点港でした。
この蝶自体もそうですが、この蝶の食草というのが、鐘萼木という大木になる樹なのですが、その分布の仕方から、どうも台湾土着の植物ではなく、大陸経由のものではないかと思われる節があります。
人家近くに生えていることが多いとか、海岸部で、他に何にも樹木がないところに、この樹だけが生えている場所なんかもあるそうですし。
Pierisに近い蝶のくせに、アブラナ科草本ではなく、樹の葉を食べるってところがまた変わっています。
現在、エウメウスワモンチョウとトガリバワモンチョウが、似たような分布をしていて、この二つのワモンチョウは、カルミとは違って食草が広く存在しているために、ごく最近台湾に帰化した新顔ですが、やはり台北や基隆あたりの東北海岸部を中心に広がってきて、いまや新店などのかなり内陸のほうまで進出しつつあるということです。

カルミのほうは、台湾に食草とともにやって来たはいいけれど、その食草自体が少ないために、分布が極限されている、ということなのではないかなと、勝手に妄想しています。


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食樹があれば、人家の近くでも飛んでいます。
前年発生したという話を聞いて、もしや・・と思い、基隆市の紅淡山という低山に出かけてみました。
たまたま入った山道で、モンシロチョウをちょっと大きめにしたチョウを発見。
これは♀。モンシロやスジグロと違って、前翅中室の黒条が帯状です。

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紅淡山の南西側のごく限られた場所で発生していました。
この場所で、また来年以降も発生するかどうかは神のみぞ・・あ、いや、カルミのみぞ知る。なんちゃって。

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       5月6日の撮影ですが、ちょうど発生盛期にあたっていて、オスもメスもピッカピカのきれいな個体ばかり
       でした。もっとも、おとなしい飛び方なので、鱗粉の剥落や羽の破損がもともと少ない蝶だと思いますが。

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        ♀の翅裏。
        止まった姿は、サイズはやや大きめですが、モンシロチョウと殆ど区別が付かないほど似ています。


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       ♂のカルミモンキチョウ
       羽の丸みが強く、後翅が真っ白で黒斑がないのが特徴です。
       盛んに地面の枯葉の上を飛び、山道を行き来していました。

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        落葉の裏の白さに惹きつけられて何度も止まっては、飛び立ちを繰り返していました。
        白い色を♀と認識しているのかもしれません。


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       エウメウスワモンチョウの♂      
       ごく最近、台湾北東部に土着して、北部全域に分布をひろげつつあるそうです。
       日本ではホソオチョウかアカボシゴマダラと同じような、台湾における外来土着種の新顔。

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        笹・竹の仲間を食草にしています。
        今はまだ北部だけにいる蝶ですが、カルミと違い、どこにでも普通にある食草に恵まれて、いつかは台
        湾全体で見られるようになるのではないでしょうか。


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        ホリシャルリシジミの交尾
        台湾の平地~低山地にかけて、ルリシジミの仲間は沢山いて、タッパンルリ、タイワンルリとならんで
        このホシヤルリが多く見られますが、判別はわずらわしく、現地では区別できず、いつも帰ってきてから
        画像で確認ってパターンです。汗;

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       おなじみ、ヒメアカタテハ
       わたしは、どうもこの蝶が好きで、ルリタテハやスミナガシと違い、台湾産は日本と同じ亜種なのに、
       姿を見かけると、ついついカメラを向けてしまいます。笑

      
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        東南アジアではオープンランドの代表種のこの蝶は、台湾ではやはり平地~低山地で見られました。
        日本のアゲハ並みにいるかと思ったら、それほど出会いは多くなかったのがちょっと意外でした。