低山の夏

今の時期、仙台にいるとどうしても気になるのが、ウラジャノメです。

ウラジャノメは、北海道、本州中部、中国山地に分布していますが、東北では福島の阿武隈山系とこれらからポツンと飛び離れて宮城・山形県境の二口峠に孤立した生息地があります。
この二口峠のウラジャノメは、裏面後翅の白帯が異様に発達して、他のウラジャノメとはだいぶ違う顔をしていることで知られています。

ところが、この二口峠というのは、あたりの山容が厳しく、20年以上も前から土砂崩れの復旧工事が放棄されてしまい、現在は通行不能となっています。
峠まで歩いていくことは出来ますが、優に3時間はかかる長い峠で、ウラジャノメのポイントは、さらにその峠から山の稜線をたどり、きついピークを二つ越えた先にあります。
この山域は、船形山~蔵王に続く奥羽山脈の主稜をなしていて、標高は1500mに満たない、山岳としてはそれほど大したことが無いように思われる小さなピークが南北につらなっているのですが、登山コースとしては極めてマイナーな地域で、殆どの道は荒れており、ところどころ藪コギを強いられるベテラン向きのか細い踏み跡が残っているところが大半、という場所です。
また、この稜線の山形側は深く切り立った岩場となっていて、よりによってウラジャノメは最も人の立ち入りの難しいこの周辺だけに生息しているといわれています。こんな状況ゆえ、山形の同好者は宮城側に比べて距離的に比較的近いということもあって、それなりに採集されていたようですが、宮城の同好者にとってはなかなか出会いがたい蝶です。
しかしながら、ここの場所にだけ極限的に生息しているわけではなく、何年かに一度ぐらいで宮城県側でも峠の麓の林道周辺でポツン、ポツンと採集されていたりします。
信州の山に出かけると、ウラジャノメは必ずしも数が多いとはいえないものの、一度の撮影旅行では必ずどこかで見かけるチョウで、シーズンと棲息地さえ外さなければ、それほど出会いの難しい種類ではないように思えます。
ところが、二口峠のウラジャノメは、その危険極まりない(過去になんども採集者が出かけて遭難騒ぎを起こしている)場所以外では、さっぱり姿を見かけない、というところが不思議です。

かなり古い記録ですが、藤岡知夫氏がわざわざこの場所に出かけてきて、なんと一度に12頭もウラジャノメを採集したという採集記を残しています。それも、二口峠そのものではなく、峠近くの山域・作並から峠に向かう途中の尾根筋で沢山みかけた、というものです。
宮城県の同好者が採集した数は全部合わせても10頭あるかどうかというほどでしたから、この藤岡氏の快挙には度肝をぬかれたようです。

しかし、それは40年ちかくも前の話。
わたしが仙台に転勤してきてから、この二口峠のウラジャノメのことは気になりながらも、なかなか出かけることができずにおりました。7月中旬というのは、年一化の蝶たちが一斉に出てくる季節なので、そちらに気を奪われていたということもありますが。笑

二口峠のウラジャノメをなんとか写真にとってみたいものと思い、先日やっと作並にでかけてみました。
40年前に藤岡氏が登りついたと思われる場所は踏み跡さえもなくなっており、物凄い急斜面で、仕方なく涸れた沢沿いに登り始めたものの、垂直の涸れ滝が次々に現れてくるし、稜線まで登るのは危険と断念して引き返す嵌めになりました。
やはり、どれほど時間がかかろうと、二口峠の廃道を登り、稜線をたどるしか道は無いようです。
またの再挑戦を期して気力を養うことにしました。汗;

このまま帰るのもつまらないと思い、春にはヒメギフチョウが飛ぶ鎌倉山に登ってみることに。
標高500Mの山頂では、ミヤマカラスやオオムラサキが乱れ飛んでいました。
ミヤマカラスの大きな夏型の♂どうしが追尾するのを撮影しようと奮闘しましたが、なかなかいいタイミングでフレーム内に捕らえることができません。
脇をふと目をやると、アワブキにはスミナガシの終齢幼虫が見えます。
撮影をしながらのんびり弁当などを広げていると、一転にわかに掻き曇り、なんだかこのピークは雷が怖そうです。
撮影もそこそこに下山することにしました。

下に降りてみると、再び青空が広がり、気温も上がってきました。
以下は、山道沿いで見かけた蝶たちです。

       イメージ 1 
        ヒメキマダラセセリ 2013.07.16  DMC-GX1 f/5.6 1/640s ISO-800 45-175mm
イメージ 2
                                                                               DMC-GX1 f/5.6 1/60s ISO-250 45-175mm
       初夏から盛夏にかけて、雑木林に隣接したススキなどのまじる草薮の上をチョンチョン跳んでいます。



イメージ 4
        スジグロチャバネセセリ                                    DMC-GX1 f/5.6 1/640s ISO-800 45-175mm
        この蝶も同じような環境で見られますが、数はぐっと少ないようです。
       仙台周辺ではめっきりその数を減らしつつある蝶のひとつ。
イメージ 5
       スジグロチャバネセセリ                                    DMC-GX1 f/5.3 1/500s ISO-800 45-175mm
       鉄道沿いの夏草の下刈りを終えた後の草原の一角でかわいらしくテリを張っていました。


イメージ 6
        カラスアゲハ春型♂                                    DMC-GX1 f/5.6 1/500s ISO-320 45-175mm
        まさしく尾翅打ち枯らした姿ですが、山頂でミヤマカラスの夏型♂と追尾飛行を繰り返して元気そのも
        のでした。

イメージ 7
        スミナガシ終齢幼虫                                               DMC-GX1 f/5 1/320s ISO-800 45-175mm
        アワブキにスミナガシの老熟幼虫を発見。
        どこにでもいる割には、意外に姿を見かけることが少ない気がします。

イメージ 8
        ミヤマカラスアゲハとカラスアゲハ 夏型♂                DMC-GX1 f/5.3 1/80s ISO-800 45-175mm
        下の林道では夏型同志が仲良く並んで吸水していました。
        このあたりは、カラスよりはミヤマカラスの個体数が多いようです。

イメージ 9
                                                                                   DMC-GX1 f/5 1/80s ISO-800 45-175mm

イメージ 10
        ミヤマカラスアゲハ                                             DMC-GX1 f/5.5 1/80s ISO-800 45-175mm
        何度見てもため息の出るような美しい蝶です。
        日本にこんな綺麗な蝶がいて、身近で出会えるこの幸せを神様に感謝したい気持ちになります。

イメージ 3
        カラスアゲハ                                             DMC-GX1 f/5.6 1/60s ISO-640 45-175mm
        ミヤマほどの輝きはないもののすっきりと端正な感じがして、やはりこれはこれで美しい!