アリの乳牛  クロシジミ

 Ant Cow<アリの乳牛>、と言われるアリの巣中で幼虫時代を過ごす一群の蝶たちは、どの種も生息地が狭小でなかなか出会う機会が少ないようです。
 今から40年ほども前のことですが、秋田にいたころ、オオミドリシジミの♀かと思って捕まえてみたら、それはクロシジミの♀でした。当時、蟻との共生という興味深い習性の蝶だという知識はあっても、姿を見たことがなかったので、その面白い蝶が自分の住まいの近くにいることが嬉しかったことを今でも思い出します。
 ところが、その当時からすでに草原性蝶類の激しい衰退が進行していたようで、その後私が歩くフィールドのどこにもクロシジミの姿を見かけたことがありません。
 そうこうしているうち、40年がたってしまいました。

 東北では、まだ数か所の発生地がいまでも残存しているようです。
 今年は、40年ぶりにクロシジミを見てみたいものと、発生地のある山形に出かけました。

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2015/07/07  クロシジミ棲息地全景  山形県小国町
 
 正面には雄大な飯豊連峰の山並みが指呼のもとに望める素晴らしい地域です。
 この日は好天でしたが、飯豊連峰には雲がかかり、上部は見えません。


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2015/07/07  クロシジミ♀  山形県小国町

一歩、草むらに足を踏み入れた途端、♀が飛び出しました。
実に40年ぶりの再会です。 

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2015/07/07  クロシジミ♀  山形県小国町

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2015/07/07  クロシジミ♀  山形県小国町
 
感激する間もなく、草原を進むたびに次々と姿を現しました。


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2015/07/07  クロシジミ♂  山形県小国町

つづいて、オスも現れた。
♀より一回り小型で、前翅の先がとんがっています。


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2015/07/07  クロシジミ♂  山形県小国町

ちょうど咲き始めたオカトラノオで吸蜜を終えたところ。

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2015/07/07  クロシジミ♂  山形県小国町
翅の角度により、一瞬シブイ藍色が光りました。


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2015/07/07  クロシジミ♀  山形県小国町
♀がシダの上にいるアリの姿を見つけ、葉の上に止まりました。
アリがクロシジミの傍に近づいて、触角で蝶の頭部に触れているようです。

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突然、蟻が口部からオレンジ色のモノを出し(胃からの吐き戻し?)、クロシジミ♀に差し出しました。
まるでクロシジミの幼虫に餌を与えるのと同じ事をしようとしているようにも見えます。

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口先にあったオレンジ色のモノはアリの口中に引っ込められたようです。
相手が受け取らないので、給餌をあきらめたか?笑;

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チョウの後方に移動するクロオオアリ

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背後に回ったアリは、触角で蝶の身体を点検するような動作を始めた。

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2本の触角を交互に動かして、蝶の身体全体をなで回すように触れている

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刺激に驚いたクロシジミ♀が翅を広げた。しかし、飛び立とうとはしない。
驚いたアリが後ずさりする様子が可笑しい。

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アリは♀の腹部に寄り添い、触角でノッキングを始めた

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蝶の尾部を盛んにノッキングする

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左右の触角を交互に使って蝶のお腹を叩く
左側をノック
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次は反対側

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アリは同じ姿勢のまま、この動作を約1分間ほど続けていた(AM9:05-AM9:06)
その間、蝶が動かずにじっとしていたのがまた興味深い

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ノッキングしても何の反応もないせいか、アリが蝶から離れた

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アリを残して飛び立つ♀

このアリの一連の興味深い動作は、クロシジミの幼虫に対する給餌行動と、尾部の蜜腺への督促行動を成虫♀に対して行ったもののようにも思えます。勝手な想像ですが。笑;

以下、次回につづく