信州へ 3  ヤリガタケシジミ

 上高地でタカネキマダラセセリとクモマベニヒカゲを撮影の後、Nさんとお別れして、翌日はアサマシジミのポイントへ向かいました。
 このポイントのアサマシジミは、ヤリガタケシジミというちょっと珍しいタイプの地方型です。以前は北アルプス南部に複数の発生地があったようですが、今では非常に限定されたポイントでしか見ることが出来ません。

 アサマシジミは、いろんな微妙に違う特徴を持った個体群・地方型があるようで、北海道のものはイシダシジミ中部地方のものは、アサマシジミ(低地型)のほかに、高山型といわれるタイプがあって、それらはそれぞれの棲息地ごとに微かな地域変異が見られ、ミョウコウシジミ、トガクシシジミ、シロウマシジミ、ハクサンシジミ、ヤリガタケシジミという別々のニック・ネームで呼ばれています。

 ヤリガタケシジミの他のアサマ低地型や高山型との大きな違いは、
  ・サイズが小型
  ・♂翅表のブルーが白っぽくなる(北海道のイシダシジミと同じ)
  ・♀はイシダシジミにはない赤紋が翅表に現れる
 ということだそうです。

 ただし、どれも変異は連続的で、亜種に分けられるほどではありませんが、微妙な変異の面白さは、アサマシジミ-いわゆる「Blues」-追っかけマニアもいるほどに、蝶愛好者の関心を惹きつけてやまない蝶です。
 しかし、近年の草原性蝶類の著しい衰退は、このアサマシジミの場合も同じで、各地で既存の棲息地が失われていて、その数は年々減少の一途をたどっているようです。同様に、ごく限定された場所にしかいないこうした地方型の命運が心配されています。

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イワオウギ 2015/07/26
乾性草原に生育するイワオウギの群落がヤリガタケシジミの棲息地となっている

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ヤリガタケシジミ  2015/07/26
ブルーの蝶が現れた。
ここには、よく似たヒメシジミもいるため、このブルーがお目当てのヤリガタケかどうかはまだわからなかった。

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ヤリガタケシジミ  2015/07/26
そっと近くに寄って、アップでみると翅裏に並んだ上から5つ目の黒斑が楕円形です。
わずかに覗く翅表のグレーがかかった鱗粉が乗っている様子もヒメシジミとは違います。
ヤリガタケシジミに間違いありません。


ちなみに、高山型のヒメシジミの画像

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ヒメシジミ  2015/07/25 上高地岳沢
この画像では5番目の黒斑は見えてませんが、紋の大きさなどで明確な違いがわかります。

ご参考までに、産地は違いますが、同じく高山型のヒメシジミ

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ヒメシジミ  2013/07/21 湯の丸
前翅裏の5番目の黒斑が丸型。
これがアサマとヒメの区別点と言われています。



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ヤリガタケシジミ  2015/07/26
羽化してだいぶ日時が経った個体と見えて、鱗粉や白い縁毛がだいぶ擦れています。

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ヤリガタケシジミ  2015/07/26
翅をV字型に開いた時、翅表の灰色がかったブルーが覗きました。

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ヤリガタケシジミ  2015/07/26
飛び立とうと翅を開いた瞬間。
明瞭な黒い翅脈が紛れもないアサマシジミの特徴です。

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            ヤリガタケシジミ  2015/07/26
            羽化に同期するように咲き始めた食草のイワオウギで吸蜜する





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ヤリガタケシジミ  2015/07/26
別の♂も姿を見せました。
始めに現れた個体よりもサイズがさらに小型で、これはヒメシジミだろうとばかり思っていました。
念のため撮影した後、画像をじっくり眺めてみるとこれもヤリガタケシジミでした。
アサマシジミ高山型の特徴をよく備えた個体です。

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ヤリガタケシジミ  2015/07/26
あまり擦れのない綺麗な♂です。
複雑で深みのある落ち着いたブルーの翅表。
発生地ごとに生ずるこのブルーのわずかな違いが、蝶ファンの興味を掻き立てます。

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            ヤリガタケシジミ  2015/07/26
このポイントでは、30分に一度ぐらいの頻度でイワオウギの群落に同じ数頭の個体がなんども入れ替わり立ち代わりでてくる感じで、ヤリガタケシジミの個体数はごく少ないように思われました。

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     ヤリガタケシジミ  2015/07/26

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ヤリガタケシジミ  2015/07/26

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     ヤリガタケシジミ  2015/07/26

都合5回ほどの撮影チャンスのうち、なんとかまともな飛翔が撮れたのは数枚だけ。汗;
少ないチャンスとはいえ、まだまだ撮影したいと思いながらも、帰宅時刻が迫ってきます。
後ろ髪をひかれる思いで、 このアサマシジミ北アルプス地方型がいつまでもこの地で舞っていてほしいと願いながら、夏まっさかりの信州を後にしました。


 「信州へ」シリーズはこれでおわりです。