2016年・ブログ未掲載シリーズ - ララサンミスジ -

シリーズ4回目は、ララサンミスジ

ララサンというのは、現在は達観山、以前は拉拉山と呼ばれていた台湾北西部の2,500Mを越える山の名前です。

 台湾の森林は、日本の植民地以前は山間地帯は全域、深い樹木におおわれていたようですが、日本の植民地政策によって、樟脳の原料として大規模な伐採が行われ、特に材木搬出の便が良かった北東部の太平山や中西部の阿里山地域の、すでに当時の日本には珍しくなっていた巨木と森林はことごとく皆伐されました。
 植民地時代に昆虫採集を行った日本人の記録によると、これらの地域は森林性の昆虫が多種類記録されていて、希少な昆虫の宝庫だったようですが、今は森林自体は二次林が回復しているものの、かつて生息していた珍蝶の姿は見ることができません。
 そのため、太平山と阿里山は台湾の蝶愛好者からは、フトオアゲハ以外に面白いものがない一番つまらない地域と言われています。

 一方、拉拉山一帯は、交通の便が悪く、大渓という深い断崖を伴った渓谷を越える必要があったせいで、日本植民地政府の森林伐採を免れた数少ない地域の一つで、開発が進んでしまった台湾のなかでも、いまだに原始的森林が残っている自然度の高い場所といわれます。
 この周辺は、オオムラサキやフトオアゲハ、モクセイアゲハ、各種ゼフィルスなど、台湾を代表する多くの蝶が見られます。

 当然ながら、この地で発見された昆虫も多く、蝶では拉拉山の名がついたものが3種類います。
ララサンミスジ、ララサンミツオシジミ、ララサンミドリシジミです。

 台湾には広義のミスジチョウの仲間が23種類もいますが、このララサンミスジはコミスジ属ではなく、ヤエヤマミスジやシロミスジのグループに分類されているようです。ミスジチョウをやや大ぶりにした感じの中型のミスジで、台湾北部~中部の高地帯に局所的に分布しています。

 ブログ主は、台湾中部横断道路の東側、観光地として有名な太魯閣渓谷の上部で、ミヤマシロチョウを探しているときにこの蝶を見つけました。

イメージ 1
ララサンミスジ♂   2016/05/13 花蓮縣太魯閣 
深い渓谷にそそぐ支流のような小さな流れのそばに開けた林間で、テリトリーを張る♂。

イメージ 2
ララサンミスジ♂   2016/05/13 花蓮縣太魯閣 
あたりを飛ぶ♂や、ほかの昆虫を追撃に飛び立った。
同じ場所に戻ることもあれば、気まぐれにまた別の場所でテリを張ることもある。

イメージ 3
ララサンミスジ♂   2016/05/13 花蓮縣太魯閣 
砂利の地面に流水が染みるような場所に、吸水にやってきた。
ほかのミスジチョウ類と比べて、翅を横断する白い帯が太く、この蝶の希少さとも相まって、全体的に優美で気品が感じられる。

イメージ 4
ララサンミスジ♂   2016/05/13 花蓮縣太魯閣 
この場所には、おびただしい数のテングチョウ(台湾亜種)がいて、ララサンミスジの周りを飛び回っては、吸水に降りていた。

イメージ 5
ララサンミスジ♂   2016/05/13 花蓮縣太魯閣 
この日、この水場の周囲で5頭のララサンミスジを見ることができた。
カエデ類ではなく、台湾高地のスイカズラの一種を食草としている。



一方、同じ場所に別のミスジもいる。

イメージ 6
                   タイワンホシミスジ   2016/05/13 花蓮縣太魯閣 
ホシミスジの名は付いているが、狭義のホシミスジ属とは別属。
台湾全土の山地に生息するが、多くないという。

イメージ 7
タイワンホシミスジ   2016/05/13 花蓮縣太魯閣 
やはり突き出た目立つ枝先でテリを陣取っていた。
ララサンミスジよりさらに少し大きめで、日本のイチモンジチョウと同じぐらいのサイズだった。