ふくやま渓谷

台湾の蝶の名前で良く聞くのが、
アリサン、とかララサン、とかムシャとかホリなどです。
これらは阿里山、拉拉山、霧社、埔里で初めて採集された蝶に、そんな名前がつけられたのだと思います。
多くの蝶に名前がつけられるほど、この場所は種類、数ともに多いといえるのではないでしょうか。
なかでも、拉拉山は、台湾の代表的なゼフィルス類のメッカと言っていい場所で、オオムラサキやフトオアゲハなどの珍蝶中の珍蝶の棲息地としても戦前から知られていました。

オオムラサキは、日本の里山ではありふれた蝶ですが、台湾ではごく限られた奥地でしか見られないため、台湾の同好者にとっては憧れの対象となっているようです。
また、モクセイアゲハは、戦前は知られていなかった種類ですが、多くのアサクラアゲハのなかから見つけ出されて、戦後、九大の白水隆教授によって新種記載されたのだそうです。
これら台湾の珍蝶の宝庫ともいうべき拉拉山に行くには、台北から桃園に移動し、さらに3時間ほどバスに揺られなくてはなりません。なかなか辺鄙なところですが、この山域の北側に、同じような蝶たちをみることが出来る場所があります。福山という小さな村です。うーらい渓谷を30分ほど上流に遡ります。

福山の渓谷には、春から初夏にかけて、沢山のミカドアゲハやアオスジアゲハに混じって、数は少ないながらアサクラアゲハとモクセイアゲハが現れます。
モクセイアゲハは台湾ではこの拉拉山から東横公路沿いの一部でしかみられない、とても棲息範囲の狭い蝶です。現地の同好者は、個体数の割合は、ミカドアゲハ100頭に対して、アサクラアゲハ10頭、モクセイアゲハ0.5頭ぐらいではないかと言っていました。

わたしが出かけた年の福山渓谷では、何らかの原因でアサクラアゲハが極端に少なくて全然姿をみることができませんでしたが、数の少ないはずのモクセイアゲハは、沢山のアオスジアゲハ類にまじって、数頭だけ姿を見せてくれました。

   


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ふくやまから、拉拉山への登山コース案内板。
徒歩で約7時間かかるということです。
台湾のゼフィルス類の宝庫と言われていますが、現在はこのコースに入る人も少なくなって、道は
だいぶ荒れているという話を聞きました。


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ふくやまの渓流で見られたミカドアゲハ、アオスジアゲハの集団吸水。
河原の砂洲にこうした集団が数箇所できていました。


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午前11時頃から午後1時ごろにもっとも吸水個体が多くなります。
この密集ぶり !


     
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お昼過ぎになって、やっと2頭のモクセイアゲハが現れました。
ミカドアゲハなどの大集団と離れて吸水開始。


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「来たっ!」
その場で撮影していた台湾のカメラマンたちが一斉にモクセイアゲハにカメラを向けます。



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羽化して間もないと思われるモクセイアゲハの♂。
清楚な白と黒の縞模様に、後翅の黄色い紋がアクセントとなっています。
アサクラアゲハとは、前翅の縦じまの白帯の数が一条少ないこと、後翅中室の黄紋が2個(アサクラは
帯状に並ぶ)で区別されます。




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アオスジアゲハなどより一回り小型で、尾の先がちょこんと白くて、かわいらしい感じのする蝶です。
白黒のダンダラ模様で小さくて、春だけに見られる蝶というわけで、日本のギフチョウヒメギフチョウ
を見ているような気持ちになります。



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ミカドアゲハの大集団に混じって吸水。
アオスジアゲハ類は、吸水中でもかなり敏感で、人の気配が近づくと直ぐに飛び立ち、集団は散って
しまいますが、モクセイアゲハはあまり頓着せず、1頭だけになっても平気で吸水を続けるようです。
大胆というか、無防備というか、却ってこの蝶に親しみが感じられました。笑