イエローバンド撮影記  於:長野県白馬村

蝶の撮影を始めるようになって、いろんな場所で同好の士と出会うことが多くなりました。
そんな人との出会いも含めて、蝶の撮影の楽しみはますます大きくなっていきます。
先日は、東京のKさんの車に同乗させていただいて、長野県白馬村までギフチョウの撮影をしに行ってきました。
長野・白馬のギフチョウといえば、この地方だけに出現する「イエローバンド型」が有名です。
恐らく最初にこの特殊な遺伝形質をもったギフチョウを発見したのは、昆虫生態写真の偉大なパイオニアであり、山岳写真家としても有名な田淵行男さんではないかと思います。
田淵さんのギフチョウヒメギフチョウ」 という生態写真集のなかで図示されたギフチョウの中で、前後の翅の外縁がくっきりと黄色に隈どられた非常に美しい個体(遺伝的変異)に、田淵さんは「イエローバンド」と名付けました。

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「生態写真 ギフチョウヒメギフチョウ」1974年 講談社


この遺伝的変異をもった美しいギフチョウは、長野県白馬村周辺にあるギフチョウの生息地だけにごくまれに発生するもので、田淵氏の著書によると、オス、メス双方にこの形質が現れ、その発現率はおよそ4~5%ぐらいではないかと書かれています。

ギフチョウは春季だけに出現する日本特産の蝶で、蝶愛好者にはとくに人気の高い種類ですが、マスコミへの登場頻度も他の昆虫に比べてもダントツに高いと思われます。
やはり、季節の始まりに一番最初に現れること、その美しさと希少性が特に多くの人たちに愛され、注目されるのでしょう。
そんなギフチョウの中でも、とりわけ美しいと言われるのがこの「イエローバンド」です。
多くの採集者に狙われ、最近になってようやく保護されるようになってからは全国の写真愛好者がこのイエローバンドを撮影しに白馬村を訪れます。

私も、一度はこのイエローバンド型のギフチョウの姿を見てみたいと思っておりましたが、この連休中にやっと念願が叶いました。
私が訪れたところは、山形と同様、ギフチョウヒメギフチョウの混生地で、ギフもヒメギフも新鮮な個体と、飛び古した個体とが入り混じっているような面白い場所でした。
ここでも、ギフとヒメギフが同じ空間を同じ時期に飛び回っているので、山形のように雑交個体が出現するのではないかと思われます。
今月号の「アサヒカメラ」に掲載された、海野和男さんの「ヒメギフチョウ」の画像は、この白馬村周辺で撮影されたもののようですが、明らかにハイブリットのように見受けられます。
ただし、海野さん自身はこれが雑交個体とは気づいておられないご様子ですが。

そんなわけで、ハイブリットが混じっているのかどうか、かなり注意して見ていたのですが、山形ほどの混淆個体は見られないようです。

この日の最大目標であるイエローバンドは、現地についてなんどかヒメギフを撮影しているうちに、一番最初に現れたギフチョウがまさしくそれでした。
同行のKさんやNさんが「バンドだ!バンドだ!」という声に、その場にいた多くの撮影者たちが一斉に駆け寄ります。
羽化したばかりの初々しい、実に美しいギフチョウで、まだおぼつかない羽ばたきをしながら枯葉や枯れ枝の堆積に静止しました。
一斉に撮影が始まりました。
しかし、そうした周囲の人間たちの興奮に驚いたかのように、そのギフチョウは空高く飛び上がり、高い木の梢に姿を消してしまいました。
しかしその後、同一と思われるギフチョウは2回姿を見せ、その3回目には、ついにカタクリの花で吸蜜をする姿をたっぷり見せてくれました。
その前日、購入したばかりで操作もまだよくわからないまま、新しいカメラでなんとかその美しいシーンを撮影することができたのは幸運でした。


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ギフチョウイエローバンド型 長野県白馬村 2014.05.04  DMC-GH4 f6.3 s1/800 ISO-200 45-174mm
たった今蛹から出て、羽を伸ばして出てきたと言わんばかりの、みずみずしいイエローバンド
前翅と後翅を縁取るような黄色の隈取りがはっきり分かります。

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ギフチョウイエローバンド型 長野県白馬村 2014.05.04  DMC-GH4 f5.6 s1/3200 ISO-1000 45-174mm
黄色の縁取りがコントラストを強調する効果があり、まさしく絵にかいたような美しさです。