岩手のゴマシジミ

全国的というほど普遍的でもなく、地方変異が変化に富んでいることで人気の高い蝶はギフチョウやアサマシジミをはじめとして何種かいますが、ゴマシジミもそんな蝶の一つです。
ゴマシジミは、幼虫時代をアリの巣の中で過ごす、アント・カウと呼ばれるアリの共棲生物の一種です。
アリに甘い蜜を提供する代わりに、アリから餌をもらって家畜のように育ててもらうクロシジミやキマダラルリツバメと決定的に違うのは、同じ巣の中にいるアリの幼虫を食べて成長する、アリにとっては天敵のような蝶だということです。
にもかかわらず、アリがこの蝶の幼虫を大切に保護しているのはどうしたことでしょう。
自然の不思議な現象の一つです。

この蝶が産卵する植物は、ワレモコウ類で、一定規模の草原または湿原性の草地がこの蝶の棲息地となります。
東北では、青森の津軽半島や下北周辺の平地にナガボノシロワレモコウが群生している場所が点在していて、この蝶のいい発生地になっていますが、南に下るとこの蝶は急に姿を消してしまい、岩手県の数か所を除いて、関東・上越まで広い分布の空白地帯となってしまいます。
私は、以前からゴマシジミを撮影したいものと、何度か下北や岩手の発生地と言われる場所に出かけたことがありますが、いずれも若干シーズンを外していたこともあり、ゴマシジミに出会うことが出来ずにいました。

先週、今年こそはとの思いで、盛岡市郊外のゴマシジミに会いに出かけて来ました。
岩手のゴマシジミは10年前までは県北~陸中の高原地帯にぽつぽつと発生地があったようですが、この数年急速に数を減らし、今では盛岡市郊外に2カ所、久慈市に一か所の3地点だけになってしまいました。
久慈市の発生地は、青森からのつづきと考えられますが、盛岡市郊外の2カ所のゴマシジミは青森や、中部地方の個体群とは切り離されて遺存的に残った独自の個体群で、翅の模様もほかの発生地のものとはやや異なります。
2カ所の棲息地のうち、一か所は発生している場所が狭く、全個体数が50頭に満たないと言われます。(2009年の岩手県の調査)
もう一か所は、岩手山山麓滝沢市)にありますが、私有地となっていて、岩手県の保護地域には指定されているものの、ゴマシジミの運命はこの土地所有者の意思次第にかかっているという、極めて危なっかしい状況にあります。
この蝶が生き残ってきた数十万年の歴史も、まさしく風前の灯というわけです。
この貴重な個体群がいつまでも健在であることを願わずにはいられません。

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岩手山山麓にあるゴマシジミの棲息地
このなかにある湿性草原の一つにゴマシジミが生活している。

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ヌマガヤとショウジョウスゲが優先する湿原
ヨシ群落との境目にナガボノシロワレモコウが点々と生えている

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ヌマガヤの茂みを縫うようにしてやや大型のシジミチョウが飛んでいく
ゴマシジミです

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2014/08/05 滝沢市      

湿原内の低木に静止したゴマシジミ
まだ新鮮なところを見ると、この湿原では発生初期と思われました。


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2014/08/05 滝沢市 
ミズギボシの花に止まり口吻を伸ばす

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2014/08/05 滝沢市 
淡い褐色と蝶名の由来となったゴマ模様のコントラストがシブく、とても気品があります


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2014/08/05 滝沢市 
まだ咲き初めのナガボノシロワレモコウの花穂で吸蜜する♂
そこへ産卵のためか、吸蜜のためかメスが訪れた

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2014/08/05 滝沢市 
前翅の前縁が帯状に黒くなり、青色と外縁の黒帯がくっきりと明瞭な岩手山山麓のゴマシジミの特徴が良くわかる


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2014/08/05 滝沢市 
同じ湿原で暮らすコキマダラセセリ

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2014/08/05 滝沢市 
ゴマシジミと同様、希少種に指定されているヒョウモンチョウの姿も
このヒョウモンチョウは本州北部亜種として、北海道、本州中部のものとは区別されています



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2014/08/05 滝沢市 
まだ開花していないナガボノシロワレモコウの穂上で交尾しているカップルを発見
上♂ 下♀

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2014/08/05 滝沢市
この蝶もシジミチョウの常で、日中はなかなか開翅して止まるということがなく、この蝶の最大の魅力である表面のブルーを写し止めるのは結構難儀します。
これは、翅を閉じた姿勢から、飛び立とうとしてまさに翅を開いた一瞬。
完全に開ききったショットは、チョウの体が手前の空間に浮いたためピントが外れてしまいました 汗;

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2014/08/05 滝沢市
飛翔の瞬間を狙ってみたが、なかなか翅表が見える角度で撮るチャンスがない・・・

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2014/08/05 滝沢市
しっかりと開翅が撮れたのは、この一枚だけ。汗;
淡いブルーが美しい!