蘭嶼島、再び

  台湾撮影旅行シリーズの最終回。

今回の台湾旅行では沢山の初撮影種があったのですが、東北の蝶シーズンたけなわでもあり、思いっきり端折って今回でとりあえず切り上げたいと思います。
珍種・ララサンミスジのことなど、面白いネタもあるのですが、これらはオフシーズンにでも・・・。汗;

とりあえずの最後は、コウトウキシタアゲハです。
台湾では蘭嶼島の特産種で、近似のキシタアゲハは台湾本島の中部から南部にかけて生息していますが、コウトウキシタはこの辺鄙な離島まで行かないとみることはできません。
台湾では、フトオアゲハなどと共に特別保護種に指定されていて、国際的にもワシントン条約によって商取引などが厳しく禁じられています。 

日本人でこの蝶を採集したことのある人は、戦後は内田春雄氏・大野義昭氏などごく数人ではないかと思います。
わたしは5年前に、この蝶を撮影しようと島に渡ったものの、朝と夕方にはるか上空を飛ぶのを指を咥えて見ているだけで、結局まともな写真を一枚も撮ることができずに帰ってきたという苦い記憶があります。

今度こそと出かけてはみたけれど、また前回のようにロクにシャッターを切ることもなく終わってしまうのではないかとの懸念がぬぐいきれません。
今回は、島に何度も出かけて見事な写真をものにしているLさんと一緒なので、なんとかなるのでは・・というかすかな希望もありましたが、

問題は、コウトウキシタが良く訪れる花が何で、島のどこにあるのか・・その一点に尽きます。
前回は、アゲハ類が好むランタナと、内田氏がその著書に吸密の写真を乗せているホナガソウを重点的にマークして早朝から夕方まで粘っていたのですが、結局一頭もこの花に食事に来ることはありませんでした。

Lさんによると、コウトウキシタアゲハは天気のいい日は飛ばず、 薄暗い曇りや小雨の時に出てきて、吸蜜するのだそうです。
ここは台湾最南部の小さな島で、暑さは台湾本土の比ではありません。
そのため、ここの蝶たちは日照の高温を避け、日差しが弱まる曇りか、小雨の日に活発に活動するそうです。

前回、絶好の天気と思っていたのは、実はコウトウキシタが一番苦手なお天気の時だったというわけです。
日中、どれほど花のそばで待っていても無駄だったわけがわかりました。汗;

今回は2泊3日の日程で蘭嶼島に渡りました。
お天気は、初日は晴天、二日目は曇り空。3日目は曇りのち小雨。
コウトウキシタアゲハを待つには最高の気象条件となりました。
そして、コウトウキシタアゲハが最も好み、その主要蜜源としている植物はミフクラギという木であることも教えてもらいました。

海岸から少し島の内陸側に入ったところにうっそうと茂った熱帯林に分け入る道があります。
雲がほとんどないいいお天気で、こんな日はコウトウキシタは林内の薄暗いところで休んでいることが多いそうです。
薄暗い林内に入って、1時間ほどしたころ、サンコウチョウの巣作りを観察していた鳥撮影のグループの一人が、コウトウキシタが下草の上に止まったことを教えてくれました。


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コウトウキシタアゲハ♂ 2016/05/09 蘭嶼
薄暗い熱帯林の巨大なシダの葉の上で熱さを避けて休んでいる♂。
下翅は輝くような黄金色だが、角度によって真珠色の光沢を放つ。
これがコウトウキシタゲハの最大の特徴。

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              コウトウキシタアゲハ♂ 2016/05/09 蘭嶼
              高さ20M以上もある熱帯林の中は薄暗いが、木漏れ日の差すところは幾分か明るい。
巨大な蝶が下草の上で翅を立てると、蝶というよりなにか大きな生き物がいるような感じがする。

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コウトウキシタアゲハ♂ 2016/05/10 蘭嶼
二日目はうす曇りで、コウトウキシタアゲハがやっと花にくるシーンを撮影することができた。

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コウトウキシタアゲハ♂ 2016/05/10 蘭嶼

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コウトウキシタアゲハ♂ 2016/05/10 蘭嶼
翅の角度によって、玄光が現れる。
白い花はミフクラギ。
この木の花こそ、コウトウキシタが大好物の蜜源なのだそうだ。
コウトウキシタを写すには、まずこの木を探すのが一番。

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コウトウキシタアゲハ♀ 2016/05/10 蘭嶼
夕暮れになって、とうとう♀が現れた。
下翅の金と黒のパターンは、全面金色のオスとはだいぶ異なる。
ほかのアゲハ類と同様、♂に比べて♀は見る機会が少ない。


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コウトウキシタアゲハ♂ 2016/05/10 蘭嶼
上の♀を追いかけた♂の後を追って別の♂が追撃し、空中高く卍巴飛行が始まった。

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コウトウキシタアゲハ♂ 2016/05/10 蘭嶼
2頭が絡むことはたまに見かけるが、3頭というのは珍しい。


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コウトウキシタアゲハ♂ 2016/05/10 蘭嶼
うす曇りでも、気温が上がると葉影に休みに来た。
トリバネアゲハの仲間らしく、首に粋な赤い帯がある。


蘭嶼島3日目

この日は、朝から暗い曇り空、時々小雨のちバケツをひっくり返したような大雨。
帰りのフェリーは大揺れに揺れて、初めて船酔いを経験してしまいました。汗;

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コウトウキシタアゲハ♀ 2016/05/11 蘭嶼
早朝、暗い空の下、一頭の巨大なメスが吸蜜に訪れた。

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コウトウキシタアゲハ♀ 2016/05/11 蘭嶼
台湾の蝶の中ではナガサキアゲハ♀をしのぎ、最大の大きさを誇る。

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コウトウキシタアゲハ♀ 2016/05/11 蘭嶼


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コウトウキシタアゲハ♀ 2016/05/11 蘭嶼
次々とミフクラギの樹を渡り歩いて、心行くまで吸蜜したあと、このメスはその大きな翼を駆って飛び去って行った。

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コウトウキシタアゲハ♂ 2016/05/11 蘭嶼
見事に赤く大きなハイビスカスに、鮮やかなコウトウキシタアゲハの黄色が目にまぶしい。
Lさんの話によると、台湾本土にいるキシタアゲハはこのハイビスカスが大好きだが、
コウトウキシタアゲハはほとんどこの花に来ないという。

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コウトウキシタアゲハ♂ 2016/05/11 蘭嶼
小雨の降るなかで、この日は鮮やかな赤い色に特に惹きつけられたのかもしれない。

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コウトウキシタアゲハ♂ 2016/05/11 蘭嶼
熱帯の生き物の美しさを、まさに絵にかいたような場面。

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コウトウキシタアゲハ♂ 2016/05/11 蘭嶼
翅に傾きの角度があると、玄光が生じ、黄金色がやや緑色がかって見えるようになる。

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コウトウキシタアゲハ♂ 2016/05/11 蘭嶼
この角度になると玄光が光る。
フラッシュを発光させると、斜めの角度でなくても簡単に玄光を出すことができるという。


蘭嶼島は、台湾の中でも生物相が特殊で、台湾本土から離れて長い年月が経過したために、多くの蝶類・昆虫類に独自の種類が進化した島だと言われています。
海流の関係から、本土よりはフィリピン系の生物相の影響を受けていて、独特のカタゾウムシなどは6種類もの特産種が生息しています。この島全体がいまでは台湾政府の特別保護区となっていて、島からこうした昆虫などを持ち出すと、日本とはけた違いに厳しい罰則が適用されると聞きました。

美しいこの島とともに、いつまでも独特の生き物たちの楽園であってほしいと願わずにはいられません。