カノクロヒカゲ - 冬眠シリーズ9 -

 ジャノメチョウの珍種、カノクロヒカゲ。
 台湾の中~高地雲霧林に生息するヒカゲチョウの一種です。
翅表は鳶一色ですが、ビロードの光沢に覆われていて光の当たりようによっては濡れたような艶に輝きます。
裏面は、各種ヒカゲの中でもとりわけ紫色の紋様が美しい種類ではないでしょうか。頭部から胸部にかけて荒く生える体毛が、虹色に輝くのも素晴らしいと思います。

 台湾産Lethe属の中でも最貴種といわれるアリサンチャイロヒカゲを撮影したのが一昨年*10月。
 以来、もう一つの希少種ともいえるこの蝶を撮影したいものと念じていたのですが、昨年6月、やっとその願いが叶いました。
 この蝶のポイントを何カ所か尋ねたものの、どこにも姿が見えず、今回は撮影をあきらめるしかないかと思ったほどでしたが、帰国する2日前に、台湾の蝶の生態を生涯追い続けた内田春雄さんがよく訪れたという、碧緑神木というところでやっと見ることができました。
 
 非常に薄暗い日陰を好んで住みかとするようで、日の当たる場所へは殆ど出て来ません。
 日の差さない草藪の下草のあたりや、暗く湿った地面に止まっては、また同じような場所に飛び移っていくので、この蝶の美しい紫の玄光をとらえるには、フラッシュが欠かせないようです。
 自然光一本やりの私には、なかなか難しいのですが、木漏れ日のところへ静止したわずかなチャンスに、なんとか写すことができました。

カノクロヒカゲ 2018/06 台湾・花蓮
暗い地面で吸水をしていた♂が、ちょっと飛んで明るい日の当たる路上に止まった。

翅の表は一様な黒褐色。

とても新鮮で、傷一つない美しい♂。
ビロードのような滑らかな艶が順光をあびて、鳶色に輝いた。

真横から、この蝶の美しい紋様を写すことができました。
複雑な紫の模様と、虹色に輝く体毛の美しさ。
台湾高地・雲霧林の珍蝶の気品が横溢しています。
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