今年も降臨　－フジミドリシジミ－

ゼフの季節が始まると、最大の楽しみはフジミドリシジミです。

昨年、一緒に北海道と信州を撮影して歩いた台湾の友人が今年も来仙して、昨年時季外れで撮影できなかった北海道の蝶を撮影に出かけましたが、実は今回の彼の第一の目標は、フジミドリシジミの撮影でした。

台湾には、１９９４年に発見された、タニカドミドリシジミという日本のフジミドリシジミにそっくりなゼフがいます。
これは、フジミドリシジミの台湾における代置種で、台湾の、ある狭い高地に遺存的に生育するタイワンブナで発生しています。
この蝶は、台湾の蝶愛好者の間でも、撮影の難しさで知られていて、台湾ブナが生えている場所に行くまで片道６・７時間を要し、食糧、テントを担いで山中泊を強いられるうえ、ブナの樹高が高すぎて、撮影しようにも手も足も出ないということです。
日本のフジミドリシジミも、ブナは近くにあってもいざ撮影しようと思っても、高い梢にいる蝶になかなか手が出せないのと同じです。
しかし、彼は蝶に関してはスーパーマンぶりを発揮して、それまで知られていた台湾ブナの生育地を別の場所でも見つけ、タニカドミドリシジミのより詳細な生活史の全貌を明らかにしてきました。

友人は、このタニカドミドリシジミの兄弟ともいえる日本のフジミドリシジミをぜひ自分の目で見てみたいということでした。
過去数年の発生状況を勘案しながら、旅行の日程を組んでもらったのが３月。
春になって、季節の進み方が例年になく遅いことが徐々に判明してきて、当初の日程ではフジミドリシジミの発生に間に合わない恐れが出てきました。
あと一週間スケジュールを延ばすことができれば、撮影条件としてはベストだった筈でしたが、あいにく台北ー仙台間のフライトが満杯で、チケットの変更ができないということでした。
例年だと、仙台はフジミドリはじめ、各種ゼフの最盛期で、もっともいいタイミングだったのですが、やはり多くの蝶の発生は１０日以上遅れていました。

北海道から仙台に戻り、彼が帰国する当日、最後の望みをかけてフジミドリのポイントに出かけました。
昨年の初見日から１０日以上が経過しているので、フジミドリは間違いなく発生しているはずです。
この日、天候条件さえ良ければ、必ずフジミドリシジミは目の前に降りてくると確信していたのですが、あいにく、前夜に雨が降り、友人はフジの姿を見ることができませんでした。
彼は、空港で「ジャパニーズ・ゴッド　ドント　ラブ　ミー」と嘆きながら私と握手して帰っていきました。
お気の毒でしたが、それでも、低地性のゼフは発生を始めていたので、フジミドリを除く各種ゼフの撮影は楽しんでもらえたのではないかと思います。

彼が帰国した後、仙台周辺のゼフィルスをぜひとも撮影したいという東京の蝶友二人が来仙されました。
天候にも恵まれ、お二人と一緒に、フジミドリをはじめ、低地性・森林性の各種ゼフを撮影することができました。