10月台湾撮影記2  - アリサンチャイロヒカゲ -

 例年ならば、10月の台湾は高気圧に覆われて、いいお天気の日が多いそうです。
 ところが、今年は近年の異常気象のせいで、毎日雨が続きました。
 面白いことに、そんな中で、台湾中部だけは局地的に雨が降らず、曇りか場合によっては晴れたりしていました。
 台湾中部を取り囲む複雑な山や河川の地形がほかとは少し違う気象条件となるようです。
 順序が前後しますが、台湾滞在6日目に、ハボン山方面が晴れそうだというので、3時間の道のりを出かけることになりました。
 ハボン山とは、合望山と書き、台湾の蝶の生態解明に半生をささげた内田春男さんの著書にもよく登場する、台湾の数々の珍稀種が生息する地域です。台湾中部山岳地帯の深部で、幸いなことに日本植民地時代の日本人による大規模な皆伐から免れ、多様な植物が生育する原始的な自然が残された数少ない場所といわれています。

 御多分に漏れず、林道は入り口に台湾林務局の関門ゲートがあり、普通人の立ち入りは禁止。わずかに林道の先にあるハボン村の住民の人たちだけが通行できるのですが、Lさんはちょっと林務局の人と話をしただけで、通行フリーのようでした。
 しかし、例によってものすごい悪路で、あちこちに重機が止めてありますが、これは毎日のように岩が落ちてくるので、そのつど村人が重機で排除して通行ができるようにしているのだとか。通行できるのは現地の人も含めて雨の降らない日だけで、少しでも雨が降る場合は通行止になるということでした。はは。こわーい。

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ハボン山に至る道
急斜面が崩壊して、少しでも雨が降ると通行禁止となる。

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森林前の関門ゲート。
奥地の住民以外は入れない。


 この日の目的は、ジャノメチョウの珍種・アリサンチャイロヒカゲです。
 黒褐色の地色が多いジャノメチョウの中で、美しくも味わいのある明るい茶色をしたヒカゲチョウで、海抜1200m~2500mの高山雲霧林に生息しています。

 わずかに木漏れ日が差し込むうっそうと茂った森林に生えたニイタカヤダケの藪がこの蝶の生活圏です。
 Lさんによれば、5月~8月に発生し、10月は非常に少なくて、私が行く一週間前に撮影に訪れたLさんの友人は、この蝶が好んで活動する晴天の日に、一日中探してボロボロに破損した1頭しか姿を見なかったそうです。

 しかしこの日は幸運なことに、やや破損した♂数頭とやや新鮮な♀を見ることができました。日本のヒカゲチョウ類のように低い場所に止まることはなく、見上げるような中空に枝を伸ばした樹上の葉の上でテリトリーを張る様子を観察することができました。

アリサンチャイロヒカゲ♂  2017/10/17  南投県合観山
暗く茂る照葉樹の小枝で、朝の木漏れ日に現れた茶色の蝶。
奥深い森林の住人として、神秘的な雰囲気さえ漂います。
内田春男さんの写真で眺めて、ああこんな変わったヒカゲチョウがいるなら実際に見てみたいものだと思ったものですが、その姿を目にする日がくるとは夢にも思いませんでした。

アリサンチャイロヒカゲ♂  2017/10/17  南投県合観山
ジャノメチョウ一般の習性で、とても神経質でちょっとでも目立つ動きをすると警戒して飛んでしまいます。
遠くから息を殺すようにして、そおっと近づいて望遠で撮影。
少々翅が破損していますが、この時期にしては綺麗なほうだとのこと。

アリサンチャイロヒカゲ♂  2017/10/17  南投県合観山
下草のような低い場所には来ることがなく、見上げるような場所でテリを張る。
逆光で翅の模様が良くわからないのがもどかしい。汗;

             アリサンチャイロヒカゲ♀  2017/10/17  南投県合観山
            カシなどの照葉樹の林間にところどころ空間があり、この蝶の食草であるニイタカヤダケが生育している。
            食草の葉上に止まった♀は産卵に訪れたのだろうか。

アリサンチャイロヒカゲ♂  2017/10/17  南投県合観山
とても新鮮な♂もテリ張り場に現れた。


アリサンチャイロヒカゲ♂  2017/10/17  南投県合観山
こちらの♂もテリ張り。
近くを通りかかったほかの虫を追撃していた。

            アリサンチャイロヒカゲ♂  2017/10/17  南投県合観山
            暗がりの中に、木洩れ日に明るく照らされた枝でテリ張りする♂

アリサンチャイロヒカゲ♂  2017/10/17  南投県合観山
ほかの♂を見るや否や、猛烈な勢いで追撃に飛び出した。(↑クリックで拡大)

アリサンチャイロヒカゲ♂  2017/10/17  南投県合観山
身を返すようにして方向転換する。

アリサンチャイロヒカゲ♂  2017/10/17  南投県合観山

アリサンチャイロヒカゲ♂  2017/10/17  南投県合観山
この日最後に現れた比較的新鮮な♂。
別れを惜しむように、いつまでもこの場所で私たちを見送ってくれた。