おひざ元の危機  - タイワンツバメシジミ -

 タイワンツバメシジミは、なにせお国の名前がついてるくらいだから、とーぜん台湾にはゴマンといる普通種だろう、と思っていたのは10年前。ある昆虫同好誌で台湾の某研究者から、油断をしていたらいまや絶滅寸前の危機です、という報告が掲載されているのを見て、たまげてしまいました。
 それまで、この蝶が日本だけでなく、海外でもそんなに数が少なくなっているとは知りませんでした。

 長崎の某島でこの蝶を撮影したことがあります。
 環境庁が設置した保護看板だけが空しく立っていて、肝心の蝶はそのあたりには影も形も見えず、散々探し回った末、1キロほど離れたネコの額ほどの草原でこの蝶を見つけたのですが、かつてはそれなりに見られたトカラ列島や、奄美・沖縄でも最近は多くの場所で姿を消したそうです。

 食草・シバハギの特異な花穂形成の生態のせいで、人工的な環境での累代飼育は難しいという話を聞いたことがあります。遷移の途中にある不安定な植生の場所に限って生育するということから、環境全体を保護するという点でも難しいらしい。
 日本国内では、それでも何とか保っている棲息地で、保護活動が続けられているようですが、台湾ではそうした活動があるわけでもなく、近い将来、タイワンツバメという名ばかりを残して完全に消えてしまいそうです。

 今、台湾でこの蝶が見られるのは、南部・高雄縣郊外の荒地だけです。
 ここは、有名な観光地「月世界」という荒涼とした地形のある場所の近くで、傾斜した崩壊地がわずかに残っていました。すぐ近くまで民家の檳榔やマンゴ―の畑が迫っていて、農薬散布によって周辺にいた多くの蝶は激減してしまったそうですが、この崩壊斜面だけがかろうじて農地開発の手から免れているようです。
 しかしこの場所も、植生遷移が進んでススキが入り込んでいました。
 あと何年、この草地が維持されるのか、心もとない感じがしました。

 台湾のタイワンツバメは日本産とは亜種が異なります。
 日本産の♀は翅表が黒一色ですが、台湾亜種は日本のツバメシジミの春型のような美しい淡色の紋様を纏っています。

タイワンツバメシジミ
発生盛期は終わりかかっていましたが、すぐに切れてしまいやすい長い尾は完全でした。







♀の翅裏。♂とほとんど変わったところはありません。

  まるで、日本のツバメシジミ春型の美麗型みたいに白斑が拡大するのが台湾亜種の特徴です。

丸い翅型の、まるでパンダみたいなかわいらしさ。

真横に飛んだので、連射のほとんどにピントが当たりました。
例によって連写合成  笑;